100万回生きたオヂ

100万回も死んで、100万回も生き返った「オヂ」がいました。

ある時は、IT企業の「意識高い系社長」のオヂでした。
オヂは「イノベーション」「コミット」と横文字を連発していましたが、横文字の意味は自分でもよく分かっていませんでした。オヂが過労で倒れて死んだとき、社員たちは涙を流して喜び、形式的なお葬式で大号泣しました。オヂは意識高い系が大嫌いでした。

またある時は、地方都市の「地元の頑固親父」のオヂでした。
若い衆(主に元ヤン)を集めては「俺が若い頃はなぁ!」と、聞かれてもいない武勇伝を語るのが趣味でした。オヂが酒の飲みすぎで死んだとき、居酒屋の店主は「これで客が戻ってくる!」と嬉し泣きしました。オヂは地元界隈が大嫌いでした。

またある時は、「インフルエンサー」のオヂでした。
加工アプリで肌をツルツルにし、自撮りを投稿していました。オヂが撮影中にポーズをキメすぎて足を滑らせ、マンションのベランダから落ちて死んだとき、フォロワーたちは「#成仏してクレメンス」というハッシュタグをつけて、嘘の涙を流しました。オヂはSNSが大嫌いでした。

――そして、ある生まれ変わりの時。

オヂは、何のオヂでもなくなっていました。彼は初めて「無職で自由な、ただの小太り独身オヂ(親と同居)」になったのです。オヂは自分のことが基本的に大好きなので、毎日が最高でした。お小遣い(親の年金)をすべて趣味のサウナとビールに注ぎ込み、充実した「整う」日々を送っていました。

そんなある日、オヂは公園で、とても美しい「オバ」に出会いました。
オバは白髪混じりの髪を上品にまとめ、静かに読書をしていました。オヂは彼女に近づき、自慢げに言いました。

「俺、これまでに100万回も生まれ変わって、社長とかインフルエンサーとかやってきたんだよね」

オバは本から目を離さず、「あっ、そう」と冷たくあしらいました。
オヂはショックでした。今までどんな人間も、オヂの肩書きや話に(一応は)反応してくれたからです。

翌日もオヂはオバの元へ行き、「俺、サウナの熱波師の資格持ってるんだよ?」と言いました。
オバは「へえ、暑そうね」と言ったきりでした。

オヂは、いつの間にか自分の武勇伝を語るのをやめていました。
ただ、オバの隣に座って、一緒に静かに缶コーヒーを飲むようになりました。

そしてある日、オヂはぽつりと言いました。

「……明日も、ここにいていいかな?」

オバは初めてオヂを見て、少し困った顔をしました。

「加齢臭がちょっとキツくて……ごめんなさいね」

ショックを受けたオヂは家に引きこもり、ある朝、静かに息を引き取りました。
オヂは、もう二度とオヂとしては生き返りませんでした。その理由は不明です。