ドワーフの魔術師とエルフの狂戦士 4

 二人の旅人は、失われた神代の遺物「真理の天秤(エイトリ・スケール)」を目指していた。

 手にした者の「願い」と、それに見合う「対価」を強制的に等価交換させると言われる、奇跡の遺物だ。バルドゥルは、これを使えば、ドワーフの血に刻まれた「肉体労働への執着」を「純粋知性」へと書き換え、一族を再定義できると考えていた。

 しかし、その旅路は険しいものだった。

「……予測より半日早いな。追手の移動速度を読み違えたか」

 荒野の街道を歩く二人の前に、重厚な鎧に身を包んだドワーフの精鋭騎士団が立ちはだかった。その先頭に立つのは、バルドゥルの実の兄であり、一族最強の戦士・ドルガンであった。

「バルドゥル! 禁忌の魔術に溺れ、一族の誇りである槌を捨てた恥知らずめ。長老会はお前の身柄、あるいはその首を要求している」

 ドルガンが巨大な戦鎚(ウォーハンマー)を地面に叩きつけると、大地が震えた。

「誇りでは腹は膨れんよ、兄上。私はただ、無駄な筋力消費を排した合理的な世界を証明したいだけだ」

 バルドゥルが冷ややかに言い放った時、横から赤い突風が吹き抜けた。戦闘態勢に入ったエルウィンだ。

「おい、バルドゥル。こいつ、さっきからお前を『出来損ない』呼ばわりしてやがるな? 兄弟だか何だか知らねーが、私の相棒を馬鹿にするのは、私の獲物を横取りするより罪が重いぞ」

 エルウィンの瞳に、真紅の殺気が宿る。

「エルウィン、待て。相手はドワーフの重装歩兵だ。正面衝突は非論理的……」

「黙ってろ! 『血の沸騰(ブラッド・レイジ)』!」

 彼女の咆哮とともに、周囲の空気が熱波に変わった。エルウィンは地面を爆破するように蹴り出し、ドワーフ騎士団の鉄壁の陣形へ突っ込む。

「狂ったエルフが! 叩き潰せ!」

 ドルガンの戦鎚がエルウィンを襲う。その瞬間、バルドゥルの指先が空中に魔法陣を描いた。

「第十二数式・局所慣性無効化。……エルウィン、そのまま跳べ!」

 バルドゥルの支援魔法により、エルウィンの大剣は一瞬だけ「重さ」を失い、羽のように軽く、光速に近い速度でドルガンの防壁をすり抜ける。そして衝突の直前、バルドゥルが術式を解除した。

「次は、質量を三倍に加算。……叩き込め」

 超高速から放たれる、重力増幅された一撃。ドルガンの盾は一瞬でひしゃげ、鋼鉄の鎧を着たドワーフたちは、木の葉のように吹き飛ばされた。

「……計算通り。兄上、長老会に伝えてくれ。私の魔法は、貴方たちの筋肉よりも遥かに強力だ」

 倒れ伏す追手たちを冷ややかに見下ろすバルドゥルと、返り血を舐めながら「次だ、次を連れてこい!」と吠えるエルウィン。

 二人の行く手には、さらなる混乱と破壊が待ち受けていた。