ドワーフの魔術師とエルフの狂戦士 3

 二人の出会いは、今から数年前。ドワーフの聖地「鉄槌山脈」の最深部にある、放棄された古代図書館でのこと。

 当時、バルドゥルは一族から「斧もまともに持てない出来損ない」と蔑まれながら、独りで古文書の解読に没頭していた。彼が求めていたのは、失われた「空間固定の術式」だ。

 しかし、運悪くその場所は、地下深くに眠る古龍の眷属、岩トカゲの巣窟となっていた。

「……計算ミスだ。防護障壁の強度が、奴らの顎の力に対して五パーセントも足りない」

 数百匹の岩トカゲに包囲され、バルドゥルが死を覚悟したその時。天井の岩盤をぶち破って、凄まじい勢いで「何か」が降ってきた。

 それは、全身を返り血で真っ赤に染め、瞳に狂気を宿した一人のエルフの女――エルウィンだった。

「ガハハ! 逃げ回るのも飽きたところだ、ここで皆殺しにしてやる!」

 彼女は本来、エルフの精鋭守備隊の一員だったが、その溢れすぎる闘争本能ゆえに「一族の恥」として追放され、放浪の末にこの地下迷宮へ迷い込んでいた。

 エルウィンが大剣を振るうたびに、岩トカゲの硬い皮膚がバターのように引き裂かれていく。しかし、多勢に無勢。彼女の背後に、巨大なリーダー格のトカゲが迫る。

「危ない! 右後方から質量増大反応!」

 バルドゥルが叫び、反射的に未完成の術式を放った。それは攻撃魔法ではなく、エルウィンの大剣の「座標」を空間に固定する補助魔法であった。

 エルウィンが振り回していた剣は、バルドゥルの魔法によって空中で「絶対に動かない支点」となり、突進してきた巨大トカゲは自らの勢いでその刃に激突、脳天から真っ二つに裂けた。

 静寂が訪れた後、エルウィンは肩で息をしながら、バルドゥルをまじまじと見つめた。

「……今の、お前か? 私の獲物を逃がさなかったのは」

「……不本意ながら。君の動きが数式的にあまりに無駄だらけだったものでね」

 エルフの狂戦士は、ドワーフの魔術師の胸ぐらを掴み、凶悪な笑みを浮かべた。

「気に入った! お前のその『チカチカするやつ』があれば、私はもっと派手に暴れられる。今日からお前は、私の専属軍師だ」

「軍師ではないが……まあ、よかろう」

 こうして、一族の鼻つまみ者同士、利害(と物理的な力)が一致した二人の奇妙な旅が始まったのである。