死闘すぎて滅! 5

 セルゲイの炭素繊維ブレードが、アレクセイの鎖骨を容赦なく抉り取った。ガリガリと骨を削る不快な音が響く。アレクセイは声も出せず、激痛に顔を歪めた。

「終わりだ」

 セルゲイがブレードをアレクセイの喉元へ突き出そうとした、その瞬間。

「ウオォォォォッ!」

 地獄の底から響くような咆哮とともに、意識を失っていたはずの岩蔵が立ち上がった。潰された右目、破壊された左手。しかし、残された右腕の一撃が、セルゲイの死角からその足首を極太の指で鷲掴みにした。

 黒鉄流、執念の「根切り」。

「……!? 動けるはずが……」

 セルゲイの冷徹な顔が初めて驚愕に歪む。岩蔵はそのまま、自らの肉体をへし折るほどの勢いで、セルゲイの巨体を床へと引きずり下ろした。

 セルゲイの体勢が、ほんの一瞬だけ崩れる。

「アレクセイ! 殺せェッ!」

 岩蔵の絶叫。言葉の通じないはずの異国の達人同士。しかし、死線を共有した二人の怪物の脳裏には、全く同じ「殺しの軌道」がシンクロしていた。

 アレクセイは迷わなかった。抉られた鎖骨の激痛を、アドレナリンで強制マヒさせる。彼はセルゲイに組み付かれた状態のまま、自らの右腕を限界まで脱力させ、鞭のようにしならせた。

 狙うは、セルゲイの喉仏。

 ただの突きではない。アレクセイは、岩蔵がセルゲイを地面に引きずり下ろす「下方向の引力」と、自分が踏み出す「前方向の推進力」、その二つのベクトルを完全に融合させた。

「システマ・ウダール(浸透拳)!」

 グシャッ!!!

 アレクセイの五指が、セルゲイの喉笛を完全に圧壊させた。喉の奥にめり込んだ指が、気管と頸動脈を同時に握りつぶす。

「ガ、あ……」

 いかなる戦場でも冷静だったセルゲイの目から、光が急速に失われていく。呼吸を奪われ、脳への血流を断たれた教官の巨体が、崩れるようにコンクリートの床へと頽れた。

 沈黙。

 武装部隊のリーダーは死んだ。残されたのは、血の海の中で息を荒げる二人の飢えた狼だけだった。

 岩蔵は残った左目でアレクセイを見上げ、不敵にニィと笑った。

「……いい突きだった。若造」

 アレクセイもまた、潰れた喉で小さく息を吐き、静かに頷いた。二人の間に、もはや言葉は不要だった。彼らは自らの肉体をボロ雑巾のように引きずりながら、再びお互いに向かって、残された拳をゆっくりと構え直した。

 二人の異種格闘技戦は、国家の陰謀すら飲み込み、誰もいない闇の中で、再び幕を開ける。

<滅>