死闘すぎて滅! 3

 パンッ! と、肉体が弾ける音とは明らかに違う、乾いた金属音が地下空間に鳴り響いた。

 岩蔵の放った両掌がアレクセイの頭部を挟み込む直前、その肉厚な左手の甲を、一発の銃弾が貫通していた。骨が砕け、肉片と血飛沫がアレクセイの顔面にぶちまけられる。

「……何ぃ?」

 岩蔵の動きが止まった。右目を潰され、左手を撃ち抜かれた老巨躯が、苦悶ではなく驚愕に揺れる。

 同時に、ガガガガガッ! と、凄まじい機関銃の連射音が頭上から降り注いだ。コンクリートの破片が激しく飛び散り、観客席から悲鳴と怒号が沸き起こる。天井の通気口や非常階段の扉が蹴り開けられ、漆黒の戦闘服に身を包んだ武装集団が次々と地下闘技場へ静かに降下してきた。

「作戦開始。標的の身柄を確保せよ」

 冷徹な英語の無線。彼らの狙いは、この違法賭博闘技場の壊滅ではない。アレクセイだ。

 シベリアの闇で軍の最高機密を盗み、出奔した「裏切り者」を処刑し、その肉体に埋め込まれたマイクロチップを回収するために現れた、ロシアの特殊工作部隊だった。

「チッ……追っ手か」

 肋骨を折られ、肺から血を吐きながらも、アレクセイの目が冷酷に光る。彼は床に転がっていた岩蔵の引きちぎった肉片を掴むと、それを自らの割れた額の傷口に押し付け、止血の代わりにした。

 常軌を逸した戦場適応能力。

 部隊の3人が、一斉にアレクセイに向けて銃口を向ける。

 だが、その銃銃の銃口が火を噴くより早く、片目を血で染めた岩蔵の巨体が、武装兵の一人に真横から体当たりを敢行した。時速六十キロの肉体の戦車。

 グシャァッ!

 防弾ベストごと兵士の胸骨が粉砕され、壁に叩きつけられて即死する。

「邪魔だてするな、小蝿どもがァ! 儂らの勝負に水を差す者は、誰であれ圧殺する!」

 右目を失い、左手を破壊された岩蔵は、完全に理性のタガが外れていた。武装集団の放つ銃弾を肉体で受け止めながらも、その圧倒的な膂力で兵士の首を文字通り引き抜いていく。

 一方で、アレクセイもまた、死に体の肉体を駆動させ、暗殺術の真髄を発揮していた。倒れた兵士から奪ったナイフで、次々と工作員の頸動脈を正確に、音もなく切り裂いていく。

 混沌。

 達人同士の決闘の場は、一瞬にして、国家規模の陰謀が渦巻く凄惨な戦場へと変貌した。互いを殺し合っていたはずの二人の怪物は、今や背中を合わせるような形で、押し寄せる銃火の嵐の中に身を投じていた。