完璧勇者とポンコツな仲間たち 5
「よう、お前らが噂になっている最強の女たちか……」
その日の深夜。
アベルが「ちょっと市場の深夜割引で明日の食材を買い出しに行ってきます!」と出かけた宿屋の部屋に、一人の男が窓から音もなく(厳密にはちょっと足を滑らせて「おっと」と言いながら)侵入してきた。
男の名はジーク。
王都の裏社会を牛耳ると噂される、伝説の義賊「影の支配者(自称)」である。
黒装束をスタイリッシュに纏い、顔を半分マスクで覆った彼の醸し出す雰囲気は、いかにも「できる盗賊」そのもの。だが、彼もまたこの世界に生きる純度100%の「エア実力者」だった。
ピッキングをすれば針を折る、罠を見つければとりあえず足で踏んで作動させる、しかしハッタリの技術だけは天才的であるため、なぜか周囲が勝手に勘違いして現在の地位に上り詰めた男である。
「俺様の名はジーク。光あるところに影があり、影あるところに俺様がいる……。単刀直入に言おう。お前たちのその『世界を滅ぼす力』、俺様と手を組んで、この国の腐った上層部をひっくり返すために使わないか?」
ジークはこれ以上ないほど格好いいポーズで、窓際に腰掛け、月光を背に浴びながら囁いた。
だが、お荷物(エア)三銃士は、一瞬で彼が「同類」であることを見抜いた。
なぜなら、ジークの服のあちこちから、先ほど侵入する際に引っかかったであろう荊(いばら)のトゲや、盛大にコケたと思われる泥がついていたからだ。
「ちょっとお前、裏社会の支配者の割には、ズボンの裾が思いっきり破れてるぞ」
「ふっ……。これはあえて風を通すことで、俺様の隠密歩行(ステルス・ウォーク)の速度を極限まで高めるための、最先端の暗殺迷彩だ」
息を吐くように嘘をつき、レナの指摘を華麗にかわすジーク。
「はあ? 外にいる犬に噛まれた跡でしょ!」
メイの鋭いツッコミに、ジークは仮面の下でビクッと肩を震わせた。
そう、彼はこの部屋に来るまでに、宿屋の裏口にいた番犬(ポメラニアン)にガブガブと噛まれ、半泣きで逃げてきたばかりだった。罠の解除能力がエアなため、犬小屋の鎖の長さを見誤ったのである。
「ええい、細かいことはどうでもいい! とにかく、お前たちほどの化け物じみた実力者がいれば、俺様の組織は完璧……」
「ただいま戻りました、皆さん! 夜食に『揚げたて極上メンチカツ』を買ってきましたよ!」
ガチャリと扉が開き、あまりにもタイミング悪く、最悪の完璧超人・アベルが帰ってきてしまった。
「ひっ、曲者(くせもの)!?」
ジークはあまりの恐怖に、自慢のハッタリを忘れて飛び上がった。
アベルから放たれる、全身から隠しきれない「本物の覇気」と「超一流のオーラ」を本能が察知したのだ。
「おや……? あなたは……」
アベルの目がキラリと光る。
ジークは「完全に終わった」と思った。今ここで、この化け物勇者に一瞬で消し炭にされるのだと。
しかし、ジークは死に物狂いで、人生最大の「ハッタリ」をカマした。
「ふ、ふふふ……。気づかれたか。さすがは勇者。だが、俺様はあえてお前に『気配を察知させた』のだ。もし本気で気配を消していれば、貴様は首が飛ぶまで俺様の存在に気づかなかっただろう……!」
実際は心臓がバクバクで、脚がプルプルと震えている。
だが、お人好しの天才・アベルの脳内で、とんでもない超変換が始まった。
「な、なんという……! わざと自分の気配を乱し、俺に『ここにいるぞ』と教えてくれたのですね!? しかもそのズボンの破れ跡……! これは、王都の地下に巣食うという、伝説の猛毒魔獣『ケルベロス・ミニ』の牙をあえて肉体で受け止め、己の抗体を高めるための狂気の荒行……! あなたは、ただの盗賊ではない。あらゆる罠と毒を無効化する、神話級の『迷宮主(ダンジョン・マスター)』ですね!?」
「え? あ、ああ……まあ、大体そんなところだ」
アベルは感動のあまり、ジークの手を両手でガシッと握りしめた。
「素晴らしい! ちょうど、王都の地下水道に眠る古代遺跡の『絶対に解除できない古代の罠』に困っていたのです! あなたのような、罠と毒を極めた伝説の義賊が仲間になってくれれば百人力、いえ千人力です! さあ、冷めないうちにメンチカツを食べながら、明日の作戦を練りましょう!」
「えっ? いや、自分は組織のボスで、その……明日もいろいろと忙し……」
「ダメだよ、ジーク! アベルがこれほど歓迎しているんだから、あんたも今日から僕たち『最強パーティ』のメンバーだよ!」
「そうですよ、ジーク様。神の導き(生贄)です。一緒に地下水道へ行きましょう」
「往生際が悪いぞ、ジーク。もう決定事項(死刑宣告)なんだって」
レナ、メイ、チカの三人が、悪い笑顔でジークの背後に回り込み、退路を完全に塞いだ。自分たちがアベルに無茶振りされる身代わり(エア仲間)が一人増えたことを、彼女たちは心の底から歓喜していた。
(俺様はお前らをスカウトしに来たのに、逆になんでこんな化け物ダンジョンに連れて行かれそうになってるんだよおぉぉぉ!!!)
ジークの心の絶叫は、アベルが差し出した揚げたてメンチカツのあまりの美味さと、お荷物(エア)三銃士の冷たい視線によって、静かに闇へと封じられた。
こうして、罠を解除できないエア盗賊・ジークを加えた「世界最強(大嘘)パーティ」は、さらなるカオスが待つ王都の地下遺跡へと足を進めるのであった。
