完璧勇者とポンコツな仲間たち 6

「ふっ……古代の超複合罠(トラップ)か。だが、俺様の『神の眼』のまえでは、ただの子供の火遊びに過ぎんよ」

王都の地下深く、薄暗い古代遺跡の通路。
影の支配者(自称)・ジークは、冷や汗でぐしょぐしょの背中を隠しながら、最高にかっこいい横顔で言い放った。

彼の目の前には、怪しく明滅する魔方陣、床から突き出た無数の鋭い針、そして触れた瞬間に天井が崩落するトリガーワイヤーが張り巡らされている。
もちろん、罠解除スキルが「エア」なジークには、どれが本物でどう解除すればいいのか、一ミリも分かっていなかった。

「さっすが、ジーク! 僕たちも彼の背中についていこう!」

背後では、レナ、メイ、チカの三人が「絶対に前には出ないぞ」という強い意志を込めた目でジークを押し出している。
さらにそのすぐ後ろでは、勇者・アベルが純粋な尊敬の眼差しでジークを見つめていた。

「なるほど……! ジークさんは、あえて罠を『解除しない』のですね! 解除の魔力を感知して発動する二次トラップまで見抜いているとは……。つまり、ジークさんが『歩いた軌跡』こそが、計算され尽くした唯一の安全地帯(セーフティ・ルート)というわけですか!」

「え? あ、ああ……まあな。俺様の足跡を寸分違わず踏んで来い。さもなければ……死ぬぞ(自分が)」

ジークはもうヤケクソだった。適当に一歩、床の針の隙間に足を滑り込ませる。

カチッ。

最悪なことに、一歩目でいきなり「天井から巨大な鉄球が降ってくるスイッチ」を踏んでしまった。

(終わった、死んだあぁぁぁ!!!)

ジークが絶望して目を瞑った瞬間――。

「そこですねッ!!」

背後から凄まじい風圧と共にアベルが飛び出してきた。
アベルは、ジークが踏んだスイッチから連動して動いた天井の歯車を一瞬で察知。「ジークさんが『あそこを攻撃しろ』と足元で合図をくれた!」と超変換したのだ。

ズガァァァァァン!!!

アベルの放った、山をも穿つ拳が一撃。天井から迫り来ていた直径五メートルの巨大鉄球は、ジークの頭上わずか数センチのところで粉々の塵(チリ)へと変わった。
あまりの衝撃波に、ジークの黒髪が激しく逆立つ。

「ふぅ、危ないところでした。ジークさんが見事に鉄球の『耐久値の最も低いコア』を足元で感知して、俺に破壊のタイミングを教えてくれなければ、危うく遺跡の天井をすべて消し飛ばしてしまうところでしたよ!」

「ひっ……は、はは……。計算通りだ。いいパンチだったぞ、アベル(心臓止まるかと思ったわボケぇぇぇ!!!)」

ジークがガタガタ震える膝を必死にロックしていると、今度は横の壁から数千本の毒矢がシュバババババ! と一斉に放たれた。
ジークがビビってのけぞった拍子に、壁のレバーに肘が当たったせいである。

「おっと、そっちもですか! 了解です!」

アベルは「ジークさんが身体を反らして、矢の射線を俺に見せてくれた!」とこれまた超解釈。
即座に、神聖最上位魔術『絶対拒絶・次元障壁』を展開。

飛んできた数千本の毒矢をすべて虚空へと消滅させると、そのままの勢いで、毒矢が仕込まれていた頑丈な石壁そのものを「ふんぬっ!」と素手で丸ごと引き剥がし、バキバキに粉砕して更地にした。

「よし、これで右側の罠も完全無力化(物理)ですね!」

(無力化っていうか、遺跡の構造が変わってねーか!?)

もはや通路の原形を留めていない。
アベルがジークの「ただのドタバタな足取り」を安全地帯だと信じ込み、ジークが動くたびに発生する致死級の罠を、超怪力と超魔術で片っ端から更地(安全地帯)に変えていくのだ。

レナたち三人は、完全に安全になった「元・罠地帯」を悠々と歩きながら、ジークに憐れみの視線を送っていた。

「ジーク、いい動きだよ。アベルの誘導役(デコイ)として満点じゃない?」

「お前のハッタリの命寿命、あと数分かもな。応援してるぞ」

「神の御加護がありますように。死んだら小さな傷だけは治してあげます」

(お前ら、後で絶対に泣かすからな……!)

ジークが涙目で睨みつけた瞬間、通路の最奥にある巨大なボス部屋の扉が勝手に開いた。
中にいたのは、何千年も遺跡を守り続けてきた古代の超魔獣『インフェルノ・キマイラ』である。その圧倒的な威圧感に、ジークは完全に硬直した。

「グルゥゥゥ……我が眠りを妨げる者は……」

「ふっ……。挨拶代わりに、我がパーティの新人(ジーク)の『挨拶』を受けてみな!」

レナがジークの背中をドォン! と容赦なく前に押し出した。

慣性で、ジークはキマイラの目の前までよろよろと進み出てしまう。
キマイラが大きな顎を開き、今にもジークを噛み砕こうとしたその時、ジークは本能的に、腰に差していた「ただの飾り(めちゃくちゃ錆びてて抜けない短剣)」の柄に手をかけ、引き抜こうとした。

「ぬ、ぬぬぬ……(錆びてて抜けないっ、外れない……!)」

必死に顔を真っ赤にして、短剣の柄をガタガタと震わせるジーク。
だが、その姿を見たアベルの脳内に、この日最大の電撃が走った。

(な、なんて恐ろしい構えだ……! あの不自然な微振動……まさか、己の魔力を短剣の分子構造と同調させ、空間そのものを切り裂く伝説の神技『超振動・次元断絶(次元切り)』の予備動作ッ!? あの技が発動すれば、キマイラだけでなく、この地下水道の全域が時空の彼方に消し飛んでしまう!!)

アベルは青ざめた。彼が本気を出す前に、自分がケリをつけなければ王都が滅ぶ!

「ジークさん、その神技はまだ早すぎます! ここは俺に譲ってください! はあああぁぁぁッ!!」

アベルがジークをそっと(普通の人間なら骨折する速度で)後ろに引き戻すと同時に、聖剣を引き抜き、渾身の光速斬撃を放った。

ピカァァァァァッ!!!

眩い閃光とともに、インフェルノ・キマイラは鳴き声をあげる暇すらなく、光の塵となって消滅した。
それどころか、ボスの後ろにあった遺跡の壁、そしてその奥の岩盤まで綺麗にV字型にくり抜かれ、遥か彼方の地上から一筋の美しい月光が地下へと差し込んできた。

「ふぅ……。ジークさんのおかげで、ボスの急所が完全に視えました。俺、あなたとパーティを組めて、本当に一回り成長できた気がします!」

差し込む月光を浴びながら、アベルは最高の笑顔でジークに握手を求めた。
ジークは、ようやく抜けた錆びた短剣を手に、ぽかんと口を開けたまま、くり抜かれた岩盤の先にある夜空を見上げていた。

「あ、あ、ああ……。いい……月、だな……(帰りたい……今すぐ実家に帰りたい……)」

「さっすが、ジーク!」「素晴らしいハッタリ(囮)だったよ!」「これで遺跡の宝箱は私たちのものですね!」と、後ろで大はしゃぎするエア女三人衆。

こうして、罠を物理破壊され尽くした古代遺跡は、ただの「風通しの良い大空洞」へと生まれ変わり、ジークの『伝説の義賊』としてのハッタリ評価は、またしても天元突破してしまうのだった。