ドワーフの魔術師とエルフの狂戦士 7

「天秤の儀式」から数年後。

「魔法を失ったドワーフ」と「不死身のエルフ」は、大陸でも類を見ない奇妙なギルドを設立した。その名は「黄金の天秤亭」。

 このギルドの最大の特徴は、依頼の「選別」にあった。

 受付に座るのは、分厚い眼鏡を外し、少し穏やかな目になったバルドゥル。彼は複雑な数式こそ失ったが、数々の研究と戦闘で培った「直感」で、依頼の本質を見抜く名人となっていた。

「この依頼は受けられんな。報酬の金貨よりも、君たちが失う信頼の方が重い」

 かつての冷徹な計算ではなく、人生の重さを量るようになった彼は、ギルドの「知恵袋」として、荒くれ者たちから意外なほど慕われるようになっていた。

 一方、エルウィンは「不滅の狂戦士」として、もはや伝説の域に達していた。

 彼女の肌はエルフの美しさを保ちながらも、ドラゴンのブレスですら火傷一つ負わないほど頑強。しかし、バルドゥルが魔法を捨ててからは、彼女の戦い方にも変化が現れていた。

「おい、バルドゥル! 今日の酒代、計算したぞ! 敵を十人倒したから、十杯分だ。合ってるか?」

 ギルドの扉を蹴破って入ってきたエルウィンが、自慢げに拳を突き出す。バルドゥルが呆れたように溜息をつく。

「……多分、合っていない。だが、君が無傷で帰ってきたことだけは正解だと言えるな」

 エルウィンは、バルドゥルを守るための「盾」になることを覚え、バルドゥルは、彼女が暴れた後の尻拭いのために「交渉」を覚えた。

 ある日の夕暮れ。

 二人はギルドの裏手で、冷めたパイを分け合っていた。

「なあ、バルドゥル。魔法が使えなくなって、後悔してないか?」

 エルウィンが珍しく真剣な顔で尋ねた。バルドゥルは、かつての魔導書ではなく、町の子供にせがまれて作った木彫りの玩具をいじりながら答えた。

「まったく後悔していないと言えば、嘘になる。だが……今の私の頭には、数式の代わりに『今日の夕食が楽しみだ』という、ひどく単純で幸せなノイズが響いている。これは、あの天秤でも量れん価値だよ」

 エルウィンはガハハと笑い、バルドゥルの背中を(加減して)叩いた。

「違いない! 私も、お前の小難しい呪文を聞くより、今のマ抜けな顔を見てる方が戦いやすいぜ!」

 世界を書き換えるはずだった二人は、結局、自分たちの小さな世界を一番心地よい形に書き換えたのであった。

 へし折れた杖と、ボロボロの大剣が交差する看板のかかった「黄金の天秤亭」。長い月日が経っても、このギルドから爆発音と笑い声が絶えることはなかった。