さらば友よ 第2章
第2章 仲間(Ⅱ)
ミッション失敗・翌日昼──
大志の行きつけのイタリアンで、パスタランチ中のふたりがいた。
「傷……大丈夫か?」
「なに、ガラにもないこと言ってんだ。
まあ、箸はちょっときついけどフォークなら全然余裕だよ」
「そうか……ほんとにすまん」
「いいってことよ。これで優斗に貸し作れたしな!」
大志は心から楽しそうに笑う。
──こいつが友達でよかった。
優斗はそう、本心で思った
──が、大志は真顔で告げてくる。
「あ、今度フレンチフルコースとロマネコンティな。
ロマネコンティだけでもいいや」
「……もうちょっと手加減してもらえませんか……
大志さん」
いらずらっ子のような笑みで大志は
「お前、命の恩人にロマネくらいスパッと
奢る漢気とかねーの?」
相変わらず楽しそうに優斗をからかっていた。
──
更に別の日──
第4課・ブリーフィングルーム
「……こんな簡単にかかるなんて思わなかった」
ひとり不気味な笑い声をあげる佳央莉。
「か、佳央莉さん?なにかあったんですか……?」
訓練後、降りてきた優斗がタオルを首にかけ、
遠巻きに佳央莉を見ていた。
「ああ、優斗くんおつかれー。
あのね、あたしのトラップにスパイが
あっさり引っかかってくれたんだよ!」
「へぇ……よかったですね」
「こんな初歩的なトラップにかかるなんて思わなかったけどね。
画像ファイルに偽装したGPS発信器のコード仕込んだら、
あっさりコピーしてって今もそのままになってるんだよねー」
「ってことは……今、そこにいるってことですか?」
「そうなるねぇ。マップで見てみる?」
「ええ、お願いします」
佳央莉のノートPCモニターにマップが表示される。
「ここって……」
「そう。3課が使ってる倉庫だったね、確か。」
「3課の誰かがスパイ……ってことですね」
「うん。それでね……」
佳央莉はメガネを外して優斗に向き直る。視線に鋭さが増した。
「実はもう一つ……仕掛けをしてあってね。
優斗くん、3課で仲いい子ひとりいたよね?」
優斗の顔が一瞬で強張る。
「──どういうことですか」
少し申し訳なさそうに佳央莉は告げた。
「隠しカメラにばっちり写っちゃってんだよね」
佳央莉は隠しカメラの画像を優斗に見せてきた。
優斗は今までにない焦燥を顔に浮かべた。
「嘘だ……こ、これって佳央莉さん作った画像でしょ?」
「残念だけど……」
「そんなわけないだろ!!」
優斗は髪の毛が逆立つような勢いで激高している。
「落ち着きなって……こうやって証拠出ちゃったし、
今この場所行けば全部わかると思うけど……」
「っ……そんなこと──あるわけないッ!!」
優斗は握りしめた両拳をデスクに叩きつけた。
バサリと書類が舞い、佳央莉のコーヒーカップと外したメガネが
そのままひっくり返った。
佳央莉はまばたきを忘れ、息を呑んだ。
心臓が、一瞬だけ跳ねるように脈打った。
「だ、だからちょっと落ち着きなって……」
「……ふざけんな!!」
優斗は今にも佳央莉に掴みかかりそうな勢いだったが、
顔をしかめ、姿勢を戻したあと踵を返し、廊下へ駆け出した。
「あ、ちょっと待って!」
佳央莉の声が、乾いた廊下に虚しく響いた。
乾いた甲高い靴音だけが遠ざかっていった。
優斗は怒りに任せ、ブリーフィングルームを飛び出していた。
……だが、ふと──先日の出来事が頭をよぎった。
「そういえば……あいつ……この前……」
優斗の足が、思わず止まった。
「確か……ブリーフィングルームの中にいた……」
胸の奥が妙にざわつく。
優斗は眉間にしわを寄せ、記憶を辿るように肩で息を吐いた。
──
再び4課・ブリーフィングルーム
「……ってことがあってね」
「そりゃもう……どうにもならない証拠だなぁ……」
佳央莉と堂島がモニターを見ながら会話を続ける。
「でも、あの大志って子、3課でも結構優秀なんでしょ?
グローブは付けてるみたいだけど……
なんで顔隠してないのかね。カメラ警戒するのが普通だと
思うけど……」
「まあ、そこは内部の犯行なんて誰も思わないだろうって、
たかをくくってたんじゃねーか」
「ともかく……あたしじゃうまいこと話出来ないからさ。
親分、優斗くんと話してきてくれない?」
「お前はストレートに話を進めすぎなんだよ」
「だって……人と話するの得意じゃないし。
そんなの親分だって知ってんでしょーが」
「まぁなあ……お前はもうちょっと人との会話を訓練しろ。
あと、霧島長官が新しく秘書探してたが……
お前も誘われてんだろ?」
「それは前向きに検討しときます……
それより優斗くんお願いします、親分。
あたし今、新しい中央管理コンピューターの運営手伝いと
補助プログラム作成、あとは量子コンピューターの基礎理論
まとめてるから、めっちゃ忙しいし」
堂島はタバコに火を点けながら続ける。
「まあ、心配するな。
あいつの中にも、ちゃんと”牙″は育ってるんだぜ」
──【次章 仲間(Ⅲ)】へ続く