19XX年11月14日の取材

※この記事はタトラー新聞社に寄稿されたものである

あなた、どこから来たの?

-日本から着ました

あら、忍者の国じゃない。こう、でしょう?ひゅんひゅん!(彼女は掌を擦って手裏剣の手ぶりをした)
ふふ。あなたも忍者みたいに隠れられるのかしら。

-いいえ、ボクは忍者のように身軽ではなくて

それは残念。いつか忍者を見かけたら紹介してね。あの、剣を振るう……

-武士?

そう、それ。武士の方が身近なのかしら。あれもクールよね、日本には城がたくさんあって身近なものなんでしょう?
あぁごめんなさい。私が聞く側ではダメね、つい話過ぎてしまうの。許して頂戴。それで貴方の聞きたいことは何だったかしら?

-大丈夫です。先日失踪したスタントマン、トム・アンダーソンについてお聞かせください。

あぁ……本当に残念だったわ。あんなに才能あるアクターが居なくなってしまうなんてなんて。
私と彼が付き合っていた時期があったことは知っているでしょう?そうでなければ私のところに来ないでしょうね。
と言っても私が彼と付き合っていたのは本当に短い間だったから、そんなに深いことは知らないわ。ごめんなさいね。

-大丈夫です、ご存じのことまでで。

そう?なら話しましょう。
日本人なら知っているでしょうけれど、トムは日本出身でもあったのよ。
お母様が日本人だったの。舞子?芸妓と言ったかしら。日本の伝統的なダンサーだったそうよ。
だから彼の動きも指先までうつくしく性的で、私は彼のスタントを見るたびに酷く興奮したものだわ。
彼は日本にかえってしまったのかしら。あなた、もし日本で彼を見かけたら「愛していた」と伝えてくださる?

-……えぇ、お約束しましょう。

「ところで、あなた。どこかで会ったことがあるかしら」

彼女はスタジオを出る前に腑に落ちない顔でボクを振り返った。
そして気まずそうに一瞬目を落とす。

「レッドカーペットで撮影を担当した事がありますが、それくらいでしょうか。どうしてそのようなことを?」

「いえ……聞き覚えのあった声だったの。けれど、その顔なら一度会ったら忘れることはないわよね。火傷……かしら、災難だったわね」

「お気遣いありがとうございます」

彼女はそれでもあなたはすてきよ、と女優の完璧な笑みを残してスタジオを後にした。

結局、彼女はボクに気が付くことは無かった。
一時の愛なんて所詮その程度ということだ。