喰命御前試合(しょくめいごぜんじあい) 4

死闘が続く江戸城吹上御庭。第四試合の呼び出しに応じ、闘技場に足を踏み入れたのは、これまでの剣士たちとは明らかに雰囲気の異なる二人だった。

第四試合:礫打ちの金剛 vs 万獣の踊り子

西方から現れたのは、「礫打ちの金剛」と呼ばれる破戒僧、幻庵(げんあん)。衣服から露出した筋骨隆々の肉体は鋼のようであり、首からは大ぶりの数珠を下げている。彼の武器は刀ではない。腰の袋に大量に詰め込まれた「石礫(いしつぶて)」と、練り上げられた「体術」のみ。懐から取り出した小石を手のひらで弄びながら、不敵に笑う。

「南無三。我が仏敵、生かしてはおかぬ」

対する東方、鈴の音を響かせながら艶やかに現れたのは、「万獣の踊り子」の異名を持つ異国の美女、シャフラ。薄い絹の衣装を纏った彼女が優雅にステップを踏むと、彼女の影から、そして御庭の木々の隙間から、無数の毒蛇、猛禽、そして巨大な黒豹が次々と姿を現し、彼女を護るように整列した。

「私の可愛い子供たち、あのお坊さんを美味しくいただきましょう」

「始めぃ!」

先手を打ったのは僧・幻庵。
衣服の袖から素早く小石を抜き取ると、目にも留まらぬ速さで指を弾いた。

「破ッ!」

シュウゥゥッ!

放たれた石礫は、大砲の弾丸のごとき轟音を立ててシャフラの額へと直撃する――かに見えた。しかし、シャフラの合図で一頭の巨大な大鷲が猛烈な羽ばたきを起こし、風圧で石の軌道をわずかに逸らす。石礫はシャフラの髪をかすめ、背後の闘技場の石壁を粉砕した。

「ほう、小鳥が邪魔をするか」

幻庵は怯むことなく、今度は両手で掴んだ複数の石を同時に放つ。散弾のごとく降り注ぐ石の雨。

「踊れ、子供たち!」

シャフラが鈴を鳴らして激しく舞う。その動きに呼応し、地を這う無数の毒蛇が編み目のように絡み合って肉の盾となり、石礫の威力を殺した。さらに、その硝煙の隙間から、影のように黒い巨体が飛び出す。

「ガルルルッ!」

鋭い牙を剥き出しにした巨大な黒豹が、幻庵の首元へ跳びかかった。
黒豹の爪が幻庵の胸元を切り裂く。赤い血が迸るが、幻庵の表情は微動だにしない。

「畜生風情が、増長するな」

幻庵は黒豹の首を左腕で強引に抱え込むと、そのまま自慢の怪力で地面に叩きつけた。地響きが鳴る。身動きの取れない黒豹の脳頭頂部へ、幻庵の硬質化した拳が叩き込まれた。

グシャリ。

一撃で黒豹を沈めた幻庵は、そのままシャフラへと突進する。

「なっ……私の黒豹を一拳で!?」

シャフラの顔に初めて焦りの色が浮かぶ。彼女は再び鈴を鳴らし、残った猛禽類をけしかけて幻庵の目を潰そうとした。
しかし、幻庵の「礫」の本領はここからだった。
幻庵は走りながら、足元の白砂を豪快に蹴り上げた。

「目潰しとは、こうやるのだ!」

舞い上がった無数の砂利に向けて、幻庵の放った一際大きな石礫が衝突。空中で弾けた石が、シャフラを操る「鈴」を正確に打ち砕いた。

チリーン……ガシャァン!

「ああっ、私の鈴が!」

音による指揮を失った動物たちが、一瞬で統率を失い散り散りになる。踊り子を守る盾は、もうどこにもない。

「阿修羅、砕破(さいは)――!」

シャフラが身を翻してかわそうとするよりも早く、幻庵の鋼の拳が彼女の腹部へと突き刺さった。凄まじい衝撃波がシャフラの身体を突き抜け、彼女は闘技場の端まで吹き飛ばされ、壁に激突して気絶した。首の骨は辛うじて繋がっているが、二度と立ち上がることはできない。

「勝負あり! 勝者、幻庵!」

数珠を鳴らし、静かに一礼する破戒僧。これで第四試合が終了し、一回戦のすべての勝者が出揃った。