死闘すぎて滅! 4
血と硝煙が充満する地下闘技場。倒れ伏した兵士たちの死体の奥から、一人の男がゆっくりと歩み出てきた。
男は武装集団と同じ黒い戦闘服を着ていたが、銃は持っていなかった。代わりに、その両腕には不気味なほど厚手の防刃ケブラー製グローブが嵌められている。
男の名はセルゲイ・イワノフ。アレクセイを育て上げた、旧ソ連の秘密軍事施設「スぺツナズ」の元最高教官である。
「無様な姿だな、アレクセイ」
セルゲイの声は、凍りついたシベリアの地平線のように冷たかった。
「……教官」
アレクセイの顔に、初めて明確な「恐怖」の戦慄が走る。
岩蔵が血に染まった隻眼でセルゲイを睨みつけ、弾丸で穴の開いた左手を構えた。
「知るかよ。儂の邪魔をする者は、全員ブチ殺す!」
地を蹴り、岩蔵が突進する。満身創痍とはいえ、その突進はコンクリートを爆砕する威力を秘めていた。
だが、セルゲイは微動だにしない。岩蔵の右拳がその顔面に肉薄した瞬間、セルゲイの身体が「消えた」。
システマの究極歩法。相手の視線と意識の死角へ、呼吸を合わせて滑り込む。セルゲイは岩蔵の踏み込みの力を利用し、その開いた脇腹へ、自身の肘を静かに「置いた」。
ボグッ!
鈍い衝撃音が響き、岩蔵の巨体がくの字に折れ曲がった。ただの肘打ちではない。岩蔵の突進のエネルギーをそのまま内臓へ反射させる、究極の脱力カウンター。
岩蔵の口から、先ほどよりも大量の胃液と血が噴き出す。
「老いぼれが。戦場(ここ)は貴様のいた生温いリングではない」
セルゲイは追撃の構えすら見せず、倒れ込む岩蔵の顔面を、容赦なく踏み抜いた。鼻骨が陥没し、脳震盪を起こした岩蔵が床に沈む。
そして、セルゲイは視線をアレクセイへと移した。
「さて、出来損ない。組織の肉(データ)を返してもらおうか」
セルゲイの手元で、ケブラー製のグローブから、三本の極薄の特殊炭素繊維ブレードがシャキインと飛び出した。それは、肉を引き裂くためだけではなく、生きたまま骨から肉を削ぎ落とすための暗殺兵器だった。
絶対的な絶望。満身創痍の狼二人の前に、それを過去に葬り去った「本物の怪物」が君臨した。
