死闘すぎて滅! 2

 アレクセイの太ももが岩蔵の頸動脈を容赦なく圧迫し、ギリギリと嫌な音が鳴る。壁まであと一歩のところで、脳への血流が止まりかけた岩蔵の視界が灰色に染まった。

(落ちる——)

 そう確信した瞬間、岩蔵の野生が理性を凌駕した。岩蔵は自らの左手の親指を、アレクセイのふくらはぎの肉へ深く突き立てた。ただの掴みではない。「万力握」と呼ばれる古流の秘伝。鍛え抜かれた指先が、防弾繊維のようなアレクセイの硬組織を肉ごと引きちぎる。

 ピンッ、と強靭な腱が断裂する弾性音が響いた。

「ガ、ハッ……!」

 激痛にアレクセイの締め付けが一瞬だけ緩む。その隙を逃さず、岩蔵は巨体を丸め、背後からコンクリートの床へと全力で倒れ込んだ。全体重を乗せた肉体の質量爆弾。

 ベキベキッ!

 岩蔵の背中と床に挟まれたアレクセイの肋骨が、三本同時にへし折れた。折れた骨の先端が、内側からアレクセイの肺組織をじわじわと突き刺し、彼の口から泡混じりの鮮血が溢れ出る。

 しかし、アレクセイの神経は狂っていた。常人ならショック死する激痛の中、彼は折れた肋骨の痛みを「呼吸法」で強制的に遮断。なおも岩蔵の右目を狙って、人差し指と中指を二本同時に突き出した。

 グチャリ。

 生々しい肉肉しい音が響く。アレクセイの指先が、岩蔵の右眼窩へと深く潜り込んだ。眼球が圧壊し、硝子体と血の混ざったドロドロとした液体が岩蔵の頬を伝う。

「ガァァァァッ!」

 片目を失った岩蔵が、獣の咆哮を上げた。だが、その顔面は笑っている。右目を犠牲にして、アレクセイの顔面を完全にその両手で捕捉したのだ。

 岩蔵の太い両手の平が、アレクセイの左右の耳を挟み込むように位置取る。

 黒鉄流「破鐘(破鐘)」。

 鼓膜を破るだけではない。超高圧の衝撃波を内耳から脳漿へと直接叩き込む、文字通りの即死技だ。岩蔵の全身の筋肉が膨れ上がり、アレクセイの頭部に向けて両手が凄まじい速度で叩きつけられた。