ドワーフの魔術師とエルフの狂戦士 2
国境沿いの宿場町で一番大きな店「鉄の蹄亭」。荒くれ者が集まるこの店で、彼らはひときわ異彩を放っていた。
「いいか、エルウィン。この町では穏便に願いたい。私の計算では、ここで騒ぎを起こすと食糧の補充に三時間の遅れが出る」
バルドゥルは、厚い丸眼鏡の奥で数字を走らせながら釘を刺した。しかし、返事はない。隣を見ると、狂戦士のエルフはすでにカウンターで、地元の荒くれ者たちが飲んでいる特大のジョッキを奪い取っていた。
「おい、エルフの女! そいつは俺の……」
「黙れ。この酒は薄すぎる。もっと、喉が焼けるようなのを寄越せッ!」
エルウィンが拳でジョッキを叩き割ると、宿の空気が一変した。乱闘の予感に、バルドゥルは深くため息をついた。
「……やはりか。三時間の遅延が確定だな」
ドワーフといえば、本来は頑強な肉体で斧を振るう一族。しかし、バルドゥルは幼い頃から「岩の重さ」よりも「岩を浮かせた時の空気の密度」に興味を持つ変わり者だった。
彼は伝統的な鍛冶を捨て、数十年もの間、地下深くの書庫に引きこもっていた。そこで見つけたのは、ドワーフの古の言語が、実は魔法の「術式」として最も効率的な構造を持っているという意外な真実。そこから寝る間も惜しんで研究を続け、遂に「魔力を鍛冶のように叩き上げ、固定する」という独自の「数秘魔法」を編み出したのであった。
「おい、ドワーフのじいさん! お前から仲間に教育してやれよ!」
大男がバルドゥルに掴みかかろうとする。しかし、バルドゥルの杖が床を一度叩くと、男の足元の重力が局所的に十倍に跳ね上がった。
「……失礼。今は『ルーンの定数』を調整中だ。触れないでもらいたい」
男が床にめり込む横で、エルウィンは楽しげに大剣の柄で別の男を殴り飛ばしていた。
「ガハハ! バルドゥル、ここの連中は骨があるぞ! 魔法で固めてくれ、私がまとめて粉砕してやる!」
「却下だ。そんなことに魔力を使うより、店の修理代を計算する方が先決だ」
魔法を極めた理論派のドワーフと、理性を投げ捨てた武闘派のエルフ。凸凹な二人の背後で、店の壁が大きな音を立てて崩れ去った。
