さらば友よ 第1章
第1章 仲間(Ⅰ)
これは優斗がまだ堂島にしごかれていた頃の
想い出──
──
大志と優斗はタバコを咥えながら、お互いにライターへ
顔を近づける。
タバコに火を点け──深く吸い込んだ。
煙が、ゆっくりと二人の間に漂う。
「なぁ、今日はかつ丼にしようぜ」
「は?昼飯ったらパスタって相場が決まってんだろ」
「はぁ?それどこの相場だよ。
うちの方じゃ聞いたことねーよ」
優斗と宮本大志はケンカをしながらランチの
相談をしていた。
この二人は4課と3課、課こそ違えど、
妙にウマが合った。
優斗にとっては、数少ない“友人”と呼べる相手だ。
大志は無駄に明るくてどこか頼りなさはあったが、
いつも優斗の一歩先を歩いているような感じの男だった。
「つーかお前、よく肉食うよな。
昨日の夜も焼肉じゃなかったか?」
「なんでそんなこと知ってんだよ!」
「お前さぁ……
焼肉なんか行ったらスーツ変えて来いよ」
「え、そんな臭う?」
「ああ。俺も今晩は焼肉食おう
って思わせるくらいな」
「マジか……あとでクリーニング出してこよ……」
「優斗って肉の国の王子か何かか?(笑)
夕べ焼肉で昼かつ丼なんて俺無理だわ」
「まぁ……堂島さんにも言われてるしな。
男なら肉食え!みたいな」
「ああ……あの筋肉ゴリラとか未来サイボーグとか
言われてる人か……
一個分隊程度なら一人で、しかも素手で完勝してくるとか、
自分の部下のしごきが地獄そのものだって、
公特中の噂だぜ……」
「そりゃ言わなくてもわかるだろ、あの人見てりゃ……」
「とりあえず早く何か食おうぜ。俺、朝飯食わねーから
腹減ってしょーがねー」
「わかったわかった。そこでいいよな?」
「え?あの店じゃ肉料理って言えるのないぞ?」
「腹減ってるのは俺も同意だ(笑)
さっさと飯にしようぜ」
優斗は大志に肩組みすると、目の前にある二人で
馴染みのラーメン屋に入って行った。
──
堂島が訓練が終わったあと、ブリーフィングルームで
タオルを取っている優斗に尋ねる。
「なあ、お前さん知らないか?」
「何がです?」
「佳央莉が言ってたんだけどな。
最近、調査報告書入れてるPCに変なログが
出てるんだとさ。スタンドアロン型で機密情報が
入れてあるんだってよ」
「あー、あのPC……俺は機械とか苦手なもんで」
「そうだよなぁ……お前さんにPCなんて
動かせるわけないよなぁ」
「……なんか引っかかる言い方ですけど、
まぁその通りですね」
「なんかめっちゃ怒ってるからさ、佳央莉のやつ。
お前さんも気を付けてくれよ。
どうせお前さんじゃ起動も出来ないと思うが」
「じゃあ言わないでくださいよ!」
──
第4課・ブリーフィングルーム
──ある日のこと
優斗は今日も屋上で堂島にしごかれた後、
ふらふらになりながら戻ってきた。
「あの未来サイボーグ、ほんと加減しないよな……
呼吸って言ったって今までと全然違うのに……
でも、これ覚えないと……新夜に勝てないか……」
愚痴を言いながらルームに戻ってきた優斗は、
怪しい人影を見つけた。
「ん?誰だ……堂島さん?」
その影はゆっくりと出てきた。
「よお、優斗いたのか」
「大志……お前何でこんなとこに」
「いやな、うちのお偉いさんに
おつかい頼まれちまってよ。もう済んだから
これで戻るわ」
「あ、ああ……」
「またな、優斗」
大志は颯爽というよりは、少し不自然な早足で
ルームを出て行った。
「あいつ……何しに来てたんだ……?」
──
──さらに別の日
公特第3課と第4課の合同ミッション。
優斗と大志は、ある施設への潜入任務を
任されていた。
ふたりで行動するのは久しぶりだったが、
作戦は順調に進んでいた
――はずだった。
優斗が途中で、不意に敵のセンサーに
引っかかってしまった。
警報が鳴り、銃撃が始まる。
「上にいるぞ!撃て!」
日本語ではない言葉が飛び交い、敵の発砲音が響き渡る。
「こんな予定じゃなかったはずだ――」
大志は優斗に聞かれないような小声で呟く。
二人は出口まで駆け抜けた、と思ったその時
「っ――!」
大志の横にいた優斗に銃弾が飛んできた。
間に合わない──咄嗟に身を翻したそのとき、
横から飛び込んできた大志が、彼を庇うようにして倒れた。
「大志!」
「大丈夫だ……さっさと逃げるぞ、このドジっ子め」
笑いながらも、その右肩には確かに赤く染まっていた。
急いで退避し、応急処置を施す。幸い、致命傷ではない。
「すまない……俺のせいで……」
「ま、これで貸しひとつだな」
大志はニカッと笑ってみせた。
優斗は大志に肩を貸し、追手が来ないうちに逃走した。
──
翌日──
「お前さん、昨日のミッション失敗したんだってな」
「ええ……すみません」
「まあ、毎回毎回成功してたら俺がいる必要なくなるからな。
気にするな」
優斗は堂島に訓練中以外で怒られたことはなかった。
「実はな……昨日のミッション、情報が洩れてたみたいなんだよ」
「え!?それほんとですか!」
「ああ……昨日の潜入場所はまだ受け渡し場所になって
日が浅い場所で、センサー類がまだ無いって下調べがついてた」
「そうだったんですか……」
「それでな……最近PCから変なログが出てるって
佳央莉が言ってただろ?
どうもな、情報が盗まれてたみたいなんだよ」
「そうでしたか……」
「まあ、やられっぱなしも気に入らないってことで、
ちょっと引っかけてやるってなってな。特に佳央莉は
【内部にスパイがいる!】
ってめっちゃご機嫌斜めだしよ……」
「ああ……佳央莉さん怒らせるのは一番まずいですね」
堂島は真剣な顔に戻り、呟いた。
「ほんとに身内からスパイなんて出なきゃいいけどな……」
堂島の一言が、優斗の胸の奥に小さなざわめきとなって刺さった。
──【次章 仲間(Ⅱ)】へ続く