ミート・アゲイン~ある焼肉屋での風景~【脚本】

由香「それでさぁ―――」

邦子「あのさ」

由香「え、なに?」

邦子「…鶏肉の至高の料理は焼き鳥だと思うんだ」

由香「は?いきなり何。まぁ、美味しいと思うけど」

邦子「で、豚肉はトンカツ」

由香「あたしは生姜焼きの方が好きだな」

邦子「生姜焼きもいい…!そしてやはり鉄板を制するのは牛肉っ」きりっ

由香「なんだ制するって」苦笑しつつ

邦子「…はるか未来。欧米の食文化により、野菜や穀類よりも、肉を中心とした食事情が当然の世の中。人々は肉を食い、肉を求め、肉を愛し、肉を崇めはじめる」

由香「何その恐ろしい世界は」

邦子「ベジタリアン等邪道!米だ?パンだ?麺だと?愚か者、人は血肉で出来ているのだ!肉こそが究極の食材なり!そう唱える肉信者が闊歩するのが常となる」

由香「どっかの料理漫画みたいだね至高とか究極とか」

邦子「しかし、それは悲劇の幕開けに過ぎなかった。…肉により制圧され退廃するそれは、最早食文化などとは呼べない。そう、人々はそれを、『ミート・ウォーズ』と呼ぶ」

由香「え、ちょっと待ってホントに何それ」

邦子「野菜や炭水化物達が次々と倒れる中、ついに立ち上がった若者がいた。その名は、ラム」

由香「おい擬人化始めんな、しかもラムって…うん?急になんだっちゃ?ダーリン」

邦子「あれだ。羊肉のこと、ラムって言うじゃん。ジンギスカンな」

由香「え、スルー?スルーなの?…あーそっちか」

邦子「少女の名はラム。世界を巡り、北の大地ノース・シー・ウェイの生み出した、戦士である」

由香「………きた…うみ…みち…北海道か!」
《世紀末っぽい効果音の中》
邦子「彼は、世界に蔓延る邪悪…圧倒的な力でこの世界の食事情を侵略し、『ミート・ウォーズ』を引き起こしている食肉三兄弟を倒すべく、旅に出た勇者の一人であった…」

由香「どんなだよ、食肉三兄弟って何だよ!つかラム肉が旅にでんの?え?」

邦子「彼女に救われる人々は問うた。『お前のような子どもが何故、あの恐ろしい三兄弟に立ち向かおうと言うのか?一歩間違えれば、死んでしまうかもしれないのに』」

ラム「…それが、私の運命(さだめ)だから」

由香「なんか意味深だな」
《この辺で世紀末音楽フェードアウト》
邦子「そう…彼女には秘密があった。海辺の町でラムに救われた少年は、尋ねた。『君の背負う運命って?』」

ラム「…それは―――」

チキン「こんな所にいたのか。裏切者」
《ハイテンションな音楽》
ラム「っ…お前はッ…チキン!」

由香「ダサっ!敵が鶏肉なのは解ったけど究極にダサいな!めっちゃビビり野郎みたいじゃん!」

チキン「我ら一族から抜け出し、世界を掌握すると言う兄様を裏切るとは…お前みたいなのが妹だと思うと、ゾッとするよ」

由香「えぇぇっ!?」

邦子「そう…ラムは、恐るべき陰謀を図る食肉三兄弟の、妹だったのだ…!」

由香「何そのダイナミック骨肉の争い!」

チキン「今すぐ兄様達にくだるなら、半殺しで許してあげるよ?」

ラム「…もし、応じなかったら?」

チキン「…本当に愚かな妹。お前のこと、やっぱり好きにはなれないよ」

由香「何でちょっと切なげなの。これ肉だよね?肉の話だよね?」

邦子「ラムは戦う…鮮血の不死鳥・チキンの空を制した攻撃を、必死にかわし続ける…!」

由香「鶏はとばねぇよ?つかホント聞けば聞くほどダサいな三男。二つ名までダサい」

邦子「しかし、三男とはいえチキンも強大な食肉三兄弟の一人!」

チキン「裏切ってまで手に入れた力。たっぷり見てあげるよ」

ラム「っ…いつの間にか周りに鉄線の壁が…それに、空中にも…!」

チキン「リングは整った…さぁ、金網デスマッチといこうじゃないか!」

由香「焼き鳥だ!それ焼き鳥になっちゃうフラグだ!」

邦子「ラムとチキンの戦い…その鍵を握るのは、海辺でラムが助けた少年…死闘の末ラムを勝利に導いたのは三男と雰囲気は似ているが全く違う優しい面影の少年、シーチキン!」

由香「海辺の町伏線だった!ってかいつの間にかチキンやられたの!」
《この辺りで音楽フェードアウト》
邦子「チキンを倒し食肉軍がいる城へ足を向けるラム。その側には、生まれ育った故郷を捨てラムと共に生きる事を選んだシーチキンの姿があった…」

由香「ついてきちゃったよ。フラグだよ。相変わらず名前めちゃくちゃダサいけど」

邦子「食肉軍の敷地内に入れば、ソーセージやウインナーなどの名うての兵が現れ、それに応戦」

由香「さも当然のように名うて扱いすんなって」

邦子「そんな中、シーチキンが敵の攻撃で怪我を負ってしまう…」

ラム「…貴方は今からでも戻るべきだ。こんな危険な場所に、連れてくるべきじゃなかった」

邦子「けれど彼は首を振った。『そんなことない。僕は、君の役に立ちたいんだ』」

ラム「けど…これ以上奥に踏み込めば、わたしは貴方を守りきれないかもしれない!」

由香「弱腰だな主人公。解るけどさ。そんな頑張らなくていいんだよ。男の気持ちも察してやりなよ」

邦子「傷を癒す為の束の間の休息…しかしそれは、本当につかの間だった」
《テーマは海賊》
ポーク「よぉ。随分楽しそうじゃねぇか。え?ラム」

邦子「現れたのは、殺戮の悪魔・ポーク!」

由香「やっぱり名前ダセぇ!」

ポーク「チキンごときを倒して、いい気になってるなんて…テメェ相変わらずの甘ちゃんだなぁ」

ラム「…そんなつもりはないけどね」

ポーク「はっ。澄ました面しやがって、可愛げのないガキだ。兄弟が一人減ったとも知らないで」

ラム「…まさか…チキン兄さんを…」

ポーク「テメェは甘いんだよラム。何故あいつに止めをささなかった?テメェが一思いにやっていればオレが手に掛けることもなかっただろうに」

ラム「…殺したのか!」

ポーク「そうさせたのはテメェだ!兄者のやり方はテメェがよく知っているはずだぜ。…けど、傑作だったなぁ。あの愚弟の死に様は。今まで聞いた中で一番の断末魔だった…」

ラム「っ…外道め…!」

ポーク「何とでも言いな!弱者には死を!さぁテメェはどんな悲鳴を聞かせてくれるんだ?」

由香「悪いなぁ次男。めっちゃ悪人だ。なんか三男がそうでもなく思えるくらい」

ポーク「あいつは金網を使うのが精々だった…が。炎だけじゃあのし上がれない。オレの十八番は熱を上回る熱。さぁ…この油海…ヘル・フライヤーで最高の断末魔を聞かせてくれよ!」
《音楽がフェードアウト》
由香「今度はそこか!技名かなんか知らないけどダサッ!二つ名がちょっと持ち直したと思ったら!結局トンカツじゃんか!油の海でユカイって何だよ!愉快なのはお前らのネーミングセンスだよ!」

邦子「まぁ、勝つんだがな」

由香「え、いきなり?え?盛り上がりは?」

邦子「ポークとの戦いにも勝ち抜き、ついに最終決戦へ向かう二人…そんな二人の間にほろりと芽生える恋…」
《物静かな甘い音楽。クラシカルな》
由香「え、嘘、ここで?来ちゃう?恋愛展開来ちゃう?」

邦子「…『ラム…僕、君の事…』」

ラム「ごめん。…それ以上は、聞けない」

由香「えぇ、なんで?」

ラム「わたしには、使命がある…逃れられない宿命だ…。まだ倒さねばならない敵もいる…。それに、わたしは貴方達を苦しめたあの三兄弟の妹だ…。貴方と幸せになんか…なれない」

由香「ラムー!そこは幸せになってよ!ダメだってそんな運命乗り越えようって!」

邦子「『そんなの関係ない!僕は、君があの人達の妹だからって憎んだりしない…だから!』」

ラム「…もし。もしも、最後の戦いが終わっても、その気持ちを変わらずに持っていてくれたなら…。今度はわたしから、想いを伝える。だから…今は」

由香「うわ何だよそれ甘酸っぱい!めちゃくちゃ甘酸っぱいよ!最終決戦前なのに!」
《また音楽が消え》
邦子「そんな二人の前に立ちはだかる、最後の敵。…冷酷非道で残虐な女王…帝王・ビーフ!」
《名乗りのバックでビーフが小者感でないように高笑いとかもあり。》

由香「やばいなんか強そう!ここまで来たらなんかその語感がありになってきた!」
《ラスボスBGM 》
ビーフ「ラムよ…本当に愚かな妹だ。何故我の覇の道を邪魔するのだ?」

ラム「兄さん…わたしはずっと、運命から逃げていた…。過ちに気付きながら、力がないばかりに貴方達を止める事も出来なかった…。だからこの世界の混沌はわたしのせいだ。わたしが無力だったばっかりに」

ビーフ「そうだ。弱きは罪なのだ。この世を総べるのは力…軟弱な菜食共等蹴散らして我らが世界を掌握すべきなのだ。強さこそ正義なのだ」

ラム「それは違う!貴方のやり方は、間違っている!力を合わせるべきなんだ!わたし達も、人も、野菜も、一つであるべきなんだ!」

ビーフ「その結果が世の堕落よ!…ラム。今ならばまだ、貴様を許してやってもいい。愚弟共を倒した力…我の為に揮ってみる気はないか?」

ラム「…断る!」

ビーフ「ラム…我は貴様が可愛い…。貴様は我によく似ている。油よりも金網よりも、我と同じく鋼鉄のフィールドを得意としているからだろう」

ラム「それしか、戦う術を知らないだけだ」

ビーフ「ふっ…どうあってもやりあうと言うのか。…いいだろう。ならば愛しくも憐れな妹よ。我が貴様を直々にあの世へ送ってやる。仇なす者には、死を」

邦子「それまで以上の死闘。それまで以上の熱気。戦いの火蓋は今、熱き鉄板の上で斬って落とされる!」

由香「焼肉じゃなくてステーキだ。ラスボス絶対ステーキだ!」

邦子「守りたい思い、伝えたい愛、様々な感情が交差する中、ついにラムの最終奥義が!」

ラム「ジンギスカン!」

邦子「はたして、ラムの運命は!地球の未来は!誰の手に握られるのか!…『ミート・アゲイン~食卓の上の戦争~』。カミング・スーン」
《音楽盛り上がりつつ、終わり》

《これをやっている後ろでお肉達をアテレコしてた面子がお疲れ様でしたーとオフで。見えているならはける》
由香「え!?そこで終わり?え?え?」

邦子「二時間九分の超大作」

由香「肉だけにか。え、何それ、どこでやんの?なんかすげぇ気になってきた」

邦子「という妄想が今駆け巡ってね」

由香「アンタの妄想かよ!そんなこったろうと思ったよ。ネーミングセンス残念すぎるし!…あ、肉なくなっちゃった。追加で頼んでいい?」

邦子「いいよー」

由香「すみませーん」

店員「はい、何でしょう」(声だけ遠くから)
《店員さんが来たていで》
由香「…えっとじゃあボンジリと豚バラと牛カルビと…あ、じゃがバターある。それも」

店員「かしこまりました」

邦子「…次回作、『野菜革命軍・POTETO 』」

由香「もういいって!」

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