完璧勇者とポンコツな仲間たち 1

「大丈夫です、皆さん! 俺の後ろに隠れていてください!」

完璧超人たる勇者・アベルの優しくも力強い声が、薄暗いダンジョンに響き渡った。
彼の前方にそびえ立つのは、並の冒険者パーティなら一瞥しただけで絶望する巨躯の持ち主、グランド・ゴーレムである。

「行くぞ……はあああッ!」

アベルが地を蹴る。その肉体は鍛え上げられ、一歩で大気を震わせるほど。
同時に彼の周囲に、神聖なる最上位魔術『ギガ・エクスプロージョン』の魔方陣が何重にも展開された。

「光の聖剣」による会心の一撃と、極大の消滅魔法が同時に放たれる。
ドゴォォォン!!! という大爆音と共に、哀れなゴーレムは塵一つ残さず消滅した。

「……ふぅ。これでこのエリアの安全は確保できましたね」

アベルは爽やかな笑顔で振り返り、純白に輝く剣を鞘に収めた。
そんな彼の後ろで、パーティの仲間たち――通称「お荷物(エア)三銃士」が、それぞれ独自のポーズでドヤ顔を決めていた。

「ふっ、見たかアベル! 私の威圧(プレッシャー)に恐れをなして、ゴーレムが自爆したようだな!」

大剣を肩に担ぎ、ふんぞり返るのは長身の女戦士・レナ。
彼女は「奇跡の女戦士」を自称しているが、その腕力は一般の町娘にも劣る。さっきもゴーレムに向かって「とおーっ!」と突撃したものの、持っていた大剣の重さにバランスを崩して転び、アベルに受け止められたばかりだった。ちなみに今は、腕が筋肉痛でプルプルと震えている。

「ふふん、すべて計算通り! 僕が放った『極小(ミクロ)・ファイア』が、ゴーレムの関節の隙間に侵入し、内部から回路を焼き切ったの分かった? ……あ、アベル、ちょっと薪ちょうだい。火が消えちゃう」

自慢げに胸を張るのは、小柄な女魔法使い・メイ。
彼女の指先には、今にも消えそうな、マッチ箱の火ほどの小さな炎が灯っている。彼女が使える魔法は、この「焚き火の種火を作る程度の火」だけ。これよりも出力を上げると魔力切れで気絶するため、戦闘ではいつも後方に隠れている。

「神の御加護です。私の祈りが、ゴーレムの邪悪な魂を浄化したのです。あ、アベル様、今の衝撃で指の皮がちょっと剥けちゃいましたね。痛いの痛いの飛んでけ(ヒール)……はい、治りました!」

最後に微笑むのは、聖職者の服に身を包んだ美貌の女僧侶・チカ。
彼女の神聖魔法は、かすり傷やささくれを治すのが限界だった。重傷者を前にするとパニックになり、逆にアベルが『神聖奇跡・完全蘇生(リザレクション)』を使って周囲をドン引きさせるのがいつものパターンだ。

「皆さん、さすがです! 俺一人では到底勝てない相手でした!」

アベルは本気で目を輝かせ、深く感動していた。
彼は「完璧」すぎた。戦闘も、魔法も、そして性格も。あまりにもお人好しで素直すぎるため、彼女たちの見え透いた「虚勢(エア)」を、すべて本物の実力だと信じ込んでいるのだ。

「さて、戦いの後は、しっかり栄養を摂らないとですね」

アベルは空間魔法のポケットから、手際よくマイ調理器具と、道中で狩った魔獣の肉、そして新鮮な野菜を取り出した。

ここからが、彼の常人離れしたヤバさ(?)の真骨頂である。
カカカカカカカッ! と、目にも留まらぬ速さで食材が刻まれていく。

そんな料理の合間に、レナの刃こぼれした大剣を預かり、「おや、手入れが必要ですね」と即座に砥石で研ぎ澄まし、鏡のようにピカピカにする。

また、メイの小さな火を「絶妙な種火です!」と絶賛しながら、自前の薪に引火させ、火加減を完璧に調整する。

さらには、チカの服のほつれを見つけると、料理の煮込み中に、神速の裁縫技術で美しい刺繍まで施して縫い直した。

数十分後、ダンジョンの通路に、およそ冒険中とは思えない芳醇な香りが漂う。
並べられたのは、高級宮廷料理さながらの「魔獣肉の赤ワイン煮込み」と「焼き立ての自家製ハーブブレッド」、そして「季節の野菜スープ」。

「さあ、召し上がれ!」

「う、うま……! 肉が口の中で溶けるぞ!」

「このパン、外はサクサクなのに中はもっちもち……アベル、もう勇者やめてシェフになっちゃえば?」

「スープが優しく五臓六腑に染み渡ります……これ、最高級の聖水ですか?」

三人は、アベルの作った絶品料理を涙目になりながらガツガツと平らげていく。

「ははは、喜んでもらえて嬉しいです。皆さんのおかげで、今日も無事に生き残れましたからね。数日以内に隣国の王都に着きます。そこでまた、皆さんの大活躍を見せてください!」

アベルの邪気のない、純粋な憧れの視線が三人に突き刺さる。

「う、うむ! 任せておけ!」(明日は絶対にアベルの後ろから動かないぞ)

「僕の魔力が火を噴いちゃうから!」(明日の焚き火も僕がパッと点けるね)

「神の癒やしを届けましょう」(アベル様が怪我しないよう、私が全力で応援します)

心の中で冷や汗を流しながらも、おいしいご飯と安全な旅路のために、今日も全力で「最強」を演じ続ける三人のエア仲間たち。
そして、そんな彼女たちを「世界最高のパーティ」と信じて疑わない、家事万能の天然最強勇者。

この不思議な一行のドタバタ珍道中は、明日も賑やかに続いていくのだった。