かいじゅうがやってきた【脚本】

ぼく「ある日、ぼくの家に怪獣がやってきた。目が大きくて、口も大きい。尻尾はない。でも、すごい声で吠える。だからぼくが怒ったら、ママが――」

ママ「大きな声出しちゃいけません!」

ぼく「と言ってぼくを叱った。怪獣の方が煩いのに。怪獣は乱暴だ。掴んだ物はすぐに壊してしまう。ぼくがそれを守ろうとすると――」

ママ「どうしてそんな事するの!」

ぼく「またママがぼくを叱った。僕はただ、怪獣から守ろうと思っただけなのに。怪獣は何でも食べてしまう。大きな口で、何でもペロリだ。ぼくの玩具も食べようとした。そしたら――」

ママ「どうして片付けておかないの!」

ぼく「まただった。ぼくは悪くない。怪獣が、勝手にぼくの玩具を食べようとしたのだ。ママは、怪獣のいいなりだ。怪獣のご飯をつくり、お世話をしている。だから助けようと思って怪獣を攻撃したら――」

ママ「何てことするの!」

ぼく「すごくすごく、怒られた。ママはもう駄目だ。怪獣の、家来になってしまったのだ。きっと怪獣には、人間に言う事をきかせる力があるに違いない。ぼくは、お姉ちゃんにその話をした」

姉 「何言ってんのよ。そんな訳ないじゃない」

ぼく「お姉ちゃんはそういうと、そのまま漫画を読み始めてしまった。きっと見ていないから、お姉ちゃんは怪獣の力に気付いていないんだ。だから、どうしてそう思ったか、話してみた。けどお姉ちゃんは――」

姉 「なぁんだ。みんなアンタが悪いんじゃない。バカな事言ってないで、おやつ持ってきてよ」

ぼく「全然相手にしてくれなかった。お姉ちゃんはいつも威張っている。でもこんな時くらい、協力してくれたっていいのに、と思った。でも仕方ない。こんな威張りん坊お姉ちゃんは、いつか怪獣に食べられてしまえばいいんだ」

姉 「アンタ今、なんか嫌な事考えたでしょ。生意気!」

ぼく「…そう思っていたら、お姉ちゃんに頭をぽかりとやられた。ぼくは、慌てて撤退した。お姉ちゃんは味方になってくれない。だから、おばあちゃんに話をすることにした」

ばぁ「怪獣かい。そりゃあ大変だ。じゃあ、ママを助けてあげなきゃねぇ」

ぼく「おばあちゃんは、いつものしわくちゃの笑顔でそう言った」

ばぁ「どうしたら、ママを助けられると思う?」

ぼく「おばあちゃんに言われて、ぼくは考えた。今までも、ぼくはママを助けようと思ってやってたんだけどな。そう思っていると、おばあちゃんは内緒話をするように顔を近づけていった」

ばぁ「こういうのはどうだい?怪獣の出来ない事をするんだ。例えば、一人で幼稚園の準備をしたり、怪獣に食べられる前に、玩具をみんな隠しちゃう。それから、ママのお手伝い。怪獣は、お皿をさげたり、ママの荷物を持ったりできないだろう?」

ぼく「なるほど、とぼくは思った。怪獣は、まだ檻の中にいる。だから、出来ない事もたくさんある。その間に、ぼくの方がママを守れることを、アピールするということか」

ばぁ「大丈夫。怪獣なのは、少しの間だけだよ。もう少ししたら、きっと仲良くなれるからね」

ぼく「おばあちゃんはそう言ったけど、ぼくはそうは思わなかった。だって、怪獣はずっと、怪獣だ。ぼくは、仕事から帰ってきたパパとお風呂に入りながら、おばあちゃんと決めた作戦について話してみた」

パパ「そっかぁ。怪獣かぁ」

ぼく「パパは、大きな口を開けて笑っていた。ぼくが真面目に話しているのにと怒ると、ごめんごめんと言って、頭を洗ってくれた」

パパ「でも、おばあちゃんとたてた作戦は、いいと思うぞ。パパも応援してる。ママは今、大変だからな」

ぼく「やっぱり怪獣のせいだ。怪獣のせいで、ママが大変なんだ。やっぱりどうにかしてやっつける方が、いいんじゃないだろうか。ぼくは、お風呂から上がった後、檻の中の怪獣を見ながら考えた。怪獣は、いつも寝ている。起きてても寝転がっていて、たまに大きく吠える」

ママ「何してるの?ご飯よ」

ぼく「ママに呼ばれてテーブルにいくと、ぼくの好きなハンバーグだった。いただきますと言った後、ママがぼくに、小さい声で言った」

ママ「ごめんね、いっぱい怒っちゃって」

ぼく「どうやら、ママにかかった怪獣の力は、今はきれているらしい」

パパ「よかったな。ハンバーグで。こりゃあ作戦、頑張らないとな」

ママ「作戦?」

ぼく「ママは不思議そうだったけど、ぼくは『ないしょ』といってご飯を食べた。ご飯の後、また怪獣を檻の外から観察する。今は大人しくぼくの方を見ている。そういえば初めて触った時、すごくふにゃふにゃしていたけど、今もふにゃふにゃなのだろうか。ぼくは、指を伸ばしてみた」

ばぁ「おや、遊んであげてるのかい。偉いねぇ」

ぼく「おばあちゃんがそう言ってお茶を飲む。怪獣が、ぎゅっとぼくの指を掴んだ。小さい癖に、結構強い。でも、やっぱり柔らかい」

パパ「流石、お兄ちゃんだな」

姉 「やっつけるとか言ってたくせに」

ぼく「指を抜こうとすると、怪獣が笑った」

姉 「言っとくけど、アンタの方がよっぽど怪獣だったんだからね」

ぼく「お姉ちゃんがそう言ってテレビのチャンネルを変える。けど、ぼくは気にしなかった。ぼくの味方になってくれなかった威張りん坊の言う事は、聞いてやるつもりはない」

ママ「まぁ、よかったわねぇ。お兄ちゃんに遊んでもらって」

ぼく「ママがそういって、怪獣をだっこする。ぼくは届かなくなったので、仕方なく下から観察を続けた。すると、おばあちゃんが――」

ばぁ「そろそろ、作戦の時間じゃないかねぇ?」

ぼく「と言ったので、ぼくは慌てて幼稚園の準備をした。ついでに歯磨きもしていると、ママがそれに気付いて驚いた」

ママ「あらすごい!やっぱりお兄ちゃんねぇ。一人で全部できて、すごいわ」

ぼく「どうやら、この作戦は満更失敗ではないらしい。ぼくの家には、怪獣がいる。白くて、ちっちゃくて、でもすごく煩くて、何でも食べる。まだまだ解らない事が沢山ある怪獣を、やっつけてもまぁよかったんだけど、折角だからもう少し、観察してみる事にした。この怪獣が大きくなって、ぼくの『妹』になるのは、もうちょっと、先の話」