ふたりの、カタチ♡

鈴木霧江すずき・きりえと田中万里枝たなか・まりえは
同じ高校の美術クラスで。

一年一学期の名簿順の班で知り合って。
なんだか名前も似ているし、自然に仲良くなって。

どちらもそれぞれアート系のプロを目指して東京へ進学することになったので、
経済的な理由からルームシェアで同居を始めたのは自然な流れで。

そこから数年、すれ違いのまま多忙な学生時代を過ごして、
さらにまた数年、忙しさが倍化する社会人生活のなかでも、
ムリしてでも、同居を、
続ける、理由は…?
と、
お互いの胸に、問いあううちに、

クールな同居は、
恋情と性愛を伴う、同棲になって。

そこからまた数年。
同性パートナー登録をして、
うちうちで、お祝いもして。

すれ違い生活と、喧嘩と仲直りを繰り返しながらも…
らぶらぶ、とお互いに認識していたが。

      ☆

新興アパレルメーカー所属の、
気鋭の新人デザイナー兼パタンナー兼
品質向上技術指導員として、
その優れた交渉力と語学力も買われて、
海外工場への出向を命じられたマリエが。

希望すれば。同性といえど公式登録も済ませた大事なパートナーを、
家族として伴う費用は出すよ?
(さいわい、向こうの国のほうが、理解があるくらいだし!)
と、会社からは言われたが。

「…ムリ。やっと構えた、あたしのアトリエは、その間、どーするのよ?」

いちおう、と、おそるおそる打診してみたマリエへの、
キリエの返事は、約30秒間ほどの沈思黙考の後の…
ほぼ、即答だった。
「来年の、個展の準備だってあるし…」

「…ですよね~…★」(半泣き)

ここで、「シゴトとアタシと、どっちが大事なのよ?」
とかいう、定番の痴話げんかを始められるほどには。
ふたりの、お互いに対する理解と愛情は…
浅くはなかった。

      ☆

数日間の苦悩と煩悶の後。
「数年間、別居になるけど、待っててくれる?」
と、お伺いをたてたマリエに。

キリエは、
「時間がとれたら、遊びに行くから泊めて?」
と、すでに色々調べた、むこうの国の美術館や。
遺跡やら工芸品アトリエのマップを並べて…

にやりと微笑んだ。

      ☆

しかしながら出発間際まで往生際が悪かったのは、出ていくマリエのほうで。

長年、同居と同棲を続けてきた思い出ぶかいアパートを引き払う準備をしながら…
(家賃節約のため、キリエはアトリエの2階に寝泊まりして、
マリエが持って行かない荷物は、戻ってくるまで、
隣の格安倉庫に突っ込んでおく、ということにしたのだ。)

ぐずぐずと。

「…写真はもちろんたくさん撮ってあるけど!
…そんなに長い間、キリエを抱きしめられないなんて~ッ!!」

当のキリエから「だっこ魔!」と、
けむたがられている、マリエである。

「…だきしめたい… うぇぇえん… キリエぇぇぇ~!」
と、ぐずったあげくに。
ふとキリエが気がついたら。

【 特注 抱き枕 】とやらのメーカーに。
キリエの全身(ほぼ裸身)の画像を!?
送りつけようと、しているではないか…!

(そこで数日間の、苛烈にしてバカバカしい痴話喧嘩が、くり広げられた、わけだが…)

      ☆

「…そんなに抱っこしたいなら、縫いぐるみとかで良ければ、アタシが創るけど…?」
ほぼ裸身画像をあかの他社のエロ用メーカーに勝手に送信されるくらいなら、と、
最後には、キリエが折れた。

「…え? ほんと? できるの??」

「陶芸と木彫にハマる前、中学ん時は、
美術部は絵を描く人ばっかしだったんで、
手芸部で立体モチーフとか?
布人形とか、創ってたから…」

「つくってぇ! お願いぃ♡」

「…なんの因果で、自分で自分の等身大ぬいぬいを…★」

などと、アホな会話をしながらも。

写実的な立体木彫と、前衛的な陶芸アートで、
ぼちぼち売れ始めているキリエは。
その場で、模造紙を取り出してきて。
自分のからだをマリエに採寸させながら。
あっという間に、型紙は作り上げたが…

「…すごい、キリエ! うちのパタンナーにスカウトしたい…!」
「…木彫りが売れなくなったら考える~w」

      ☆

さて問題は。
等身大の、りあるタッチの、女性の。
半裸身の、布人形を。
どうやって、飛行機に、持ち込んで、運ぶのか…???
「…チェロ奏者、とかは、隣の座席を、もひとつ借りるって~」
「…ちょっと、いやよ? なかみ、検査されるのよ?
なんて言い訳する気?」
「南極2号♡」

(…また、枕とかゲンノウとか飛び交う騒ぎが数日…)

      ☆

「ほい。」
と、ミシンをかけ、刺繍糸の束で髪の毛を作り、
刺繍とビー玉で

「うわ~!そっくり!♡」に作った、

自分自身の「縫いぐるみ』の…
ぺらっとした状態の、皮を。
キリエは、ぽいと、手渡した。

「中身なしの、ガワだけ丸めて、下着ケースに詰めてきゃ、検査はされないでしょ~w」
と、難事件を解決した名探偵のようなドヤ貌で、笑った。
「…あっ! ホントだ~♡」

「|衣料会社《アパレル》なんだから、向こうでワタくらい簡単に手に入るでしょ?
詰めかたはね。こう。背中のジッパー開けて~」
「きゃあ、エロい♡」
「どこがッ?★」
なんて、じゃれながら。

ほんとにワタを詰めると、出すのが大変になるから…と、
代理で。丸めた新聞紙とかをがしがし詰め込んで。
だいたいの輪郭まで膨らませたソレは。

「…ん~♡ 抱き心地、大きさ、そっくり♡」
と、マリエを嬉しそうな顔にさせたので…

まぁ、恥を忍んでアホな苦労をした甲斐はあったかな、と、
キリエも溜飲をさげたのである。

      ☆

後日。
向こうの国の、社費で借りたゆったり高級アパートで。
取引先の仲良くなったバイヤーさんなんかを集めての、
飲み会で。
マリエは得々として、キリエ人形♡を披露した…

(むろん、そちらでお土産用に買った、『ぜったいキリエに似合いそうな服!』を、
ちゃんと着せた、状態で、だったが…)

衣料品販売会社の。
質の良いマネキンの調達に、
まさにそのとき苦労していた社長が…
喰いついた。

「これ! 量産してッ!?」
「えぇぇ?」

「オーダーメイド専用の、ハイソなお客様がたにそっくりなやつと!
高級オートクチュール用の! 女性が憧れる女性、のイメージで!」

      ☆

マリエとキリエと本社と支社と、各地の工場の間で、
指示と図面と連絡が飛び交い…

気鋭のアパレルメーカーは。
エコでノンプラな『布製マネキン』製造分野にも、
勇躍、手を広げ。

そして各種の素材も試されて…

「環境にやさしい!」
布製マネキンが。

数年後には、世界の主流に、なったのである。

めでたし、めでたしw