あくまでも幼稚園児だった。(3)
そして渡米のち……
予定より早く19歳で帰国となった。
母は喜んだが、何故だろう?どこから情報漏れたんだろう?僕が19歳で博士号&MBA取得して帰国ニュース。空港にマスコミが多い。困った……。早く家に帰りたいものだ。疲れてるし。
マスコミ対応は面倒だなぁ。メディアに顔出したくないし。
うーん。あ、タカ兄だ、丸投げしよう。←酷い
「タカ兄―!戻ったよー!」
『お聞きになりましたか?無邪気に今、市場人気ナンバーワンを誇る宇佐タカシ社長に声をかけた様子です!2人の関係は何でしょうかね?』
ふんっ、もうそのくらい調べてるだろうに、白々しいな。
まぁいい。マスコミが食いついた。タカ兄の方にマスコミが行ったな。このスキにとっとと帰ろう。
Side タカシ
『チクショー。マスコミ押し付けたな?迎えに行ったのに!!』
マスコミに囲まれたじゃねーか!
「えーと、宇佐ヒロキですか?甥です。昔からタカ兄って呼ばれてますよ」
……俺も帰りたい。
家に着いたら、タカ兄からスマホに電話があった。
「俺にマスコミ押し付けたな。今からそっちに行くからな」と、一方的に電話は切られた。
「タカ兄、ゴメンって。だってマスコミは知ってるかもだけど、ムヤミヤタラと僕は顔出ししたくないもーん」
「それな……お前は知らないと思うがMBA取得のあたりからテレビでガンガンお前の顔とか略歴出てたぞ」
おぉう、なんてこったい。外出しにくいじゃん。
「ところでヒロキは今、19だよな?」
「そうだけど?」
「ちょっとこっちこいや」と、僕の部屋まで連行された。
僕は普通に懐かしーとか言ってたけど、深刻そうにタカ兄は口を開く。
「ヒロキ、お前はまだDTだよな?な?」
あ、そういう質問だったのかー。家族の前じゃねぇ?
「タカ兄が19歳の時はどうだった?」と、問うとタカ兄は口をつぐんだ。
「うーん、僕は来るもの拒まず去るもの追わずなアメリカ生活だったからなぁ」
「でも中には金髪碧眼の美女いたんじゃねーの?」
「僕、本気になんなかったなぁ。向こうも僕のステータスだけしか見てないし?」
「なんか達観してるなぁ」
「タカ兄こそ結婚しないの?」
「あー、会社の重役が見合い話持ってくるけど、政略結婚はなぁ」
「前に付き合ってた彼女は?」
「ああ、とっくに別れた。会社の資産の話とかし出して、コイツもかって感じ」
「互いに苦労しますなぁ。僕はまだ時間あるけど、タカ兄はいつまでも独身貴族なんて言ってらんないんじゃない?」
「それな。痛いとこをつきますな」
「見合い。会ってみてから断ったら?」
「うーん、そうしようかなあ?それはそうと、お前来月から社長秘書な。秘書室にも伝えてある」
ダッシュな展開だなぁ。
「今月は帰国して手続きとかいろいろあんだろ?」
多分、学校に行かなきゃ……だよな。理事長に会いに。
「だねー」
「だから来月からよろしくな。あ、制服ないから、スーツ買えよ、何着か」
マジか……。痛い出費。
「お金あんだからいーじゃん。じゃ、頼んだ!」
そう言いタカ兄は帰っていった。
「ヒロキ君ー、おかえりなさーい!ママ、ヒロキ君ができる子なのは知ってたけど、テレビ見てびっくりした。ママが思ってる以上できる子だったのねー」
今更だな。僕はわかっていた。騒ぎにならないようにって思ってたのに……。
「父は知ってたぞ!」
いや、ドヤ顔されても。だって僕からカミングアウトしたわけだし?
「MBAとか19歳で大学博士号とか今後どうするんだ?」
「タカ兄が来月からタカ兄(僕の)の会社社長秘書だってー」
「他人事のように言うなー」
「うーん、銀行員とかじゃないし、株でも生活できそうなんだけど誘われちゃった」
「ヒロキ君が社長秘書なの?秘書って女の人のイメージ」
「イメージだけだよー。やだなぁ」
本当にヤダ。と心で思う。実質、社長職だろうな。外部と関わるのはタカ兄の仕事だけど内部は僕。加えて、タカ兄のスケジュール管理か……。スケジュール管理くらい自分でって思うけど、秘書の仕事だしやむを得ん。
留学してた時の経験が役に立つといいケド。
とりあえず本日は母校に行くことにした。
何故だ?何故相川君と会うのだろう?彼だって大学生のはずだ。
「流石だな、宇佐君は。故郷に錦を飾るって感じだな」
いや、目的それじゃないし。そもそも相川君に会いたくない。
「僕はやりたいことをしてるだけだから。それに今日学校に来た理由は理事長に会うためだし。それよりも君は何故ここにいるんだい?日本で大学に通っているのでは?僕には関係ないが」
そうだ。僕には全く関係ない。
「母校に来て悪いことはあるまい」
そうなんだけどさぁ。大学の授業の出席日数とかあるんじゃないかと思うんだけどね。
「そうだね、僕は失礼するよ」
全くもって人生で関わりたくない人間に遭ってしまった。
相川君が、可愛い僕好みの女の子だったら運命?とか思ったかもだけど、これが運命なら運命を呪いたくなる。はぁ。
「失礼します。理事長、帰国しました。本日は帰国の報告に伺いました」
「いやぁ、宇佐君の宣伝効果はすごいねぇ。うちの中学の入学希望者が殺到。嬉しい悲鳴ってやつだよ」
やっぱりそうか。学校に籍を残すようにって指示があったのは。
「それはなによりです。僕の高校の卒業証書もいただきに参りました」
「おっと、そうだった。籍あったわけだしなぁ。明日にでも手配するよ。形式的なもので、君は留学先で正式に卒業した学校の卒業証書があるわけだし?」
「二重に取得っていいんでしょうか?今更ですが」
「うーん、公式的ではなく、ただのお約束って感じにすればいいのでは?」
「“証”書ですからねぇ。嘘はダメですよ」
「じゃあ、“卒業書き”ではどうだい?」
「まぁ、大丈夫じゃないかと。あ、郵送で頼みますね。僕は来月から早速仕事が決まってるので、その練習、インターンみたいなのをしたいと考えてるので」
「君が働くなら優良企業だろうねぇ、いやはや羨ましい」
僕の会社だ。一流企業だ。
「さて、卒業もしたことですし、この学校の株を買ってもいいでしょうか?」
素人考えだが、今後の伸びはあまり期待できない。むしろ僕が留学する前に買っておくべき株だ。
「いやいや、それはやめてくれ。母校枠で勘弁してほしい」
言ってみただけだけど、動揺すごいな。そして、“母校枠”ってなんだ?
僕の効果で相当もうけたんだな……。
「わかりました。まぁ、僕も仕事と株を両立するほど時間に余裕がある生活は今後できないでしょうし」
なんせ、+αでタカ兄のスケジュール管理……。
「君の今後の活躍にも期待しているよ、頑張りなさい」
「はい、ありがとうございます。失礼しました」
こうして僕は理事長室を後にした。
理事長、白髪増えたな。増収みたいだし、まぁいい。僕は僕だ。
翌日から社にインターンとして通うことにした。
なにせいきなり社長秘書だし。
僕は未成年なのに、自分より明らかに年上の部下に囲まれて生活するわけね。はい。
一応、というか自己紹介。知ってるんだろうなぁ。
「宇佐ヒロキです。社長の甥にあたりますが、ただの新入社員として扱ってください。よろしくお願いします」
刺さる……痛いってば、視線。
やっぱり僕をステータスで見るのかなぁ?
ザワザワしてる。タカ兄参上?
「あー、ヒロキは後に社長秘書になるから。えーと、来月からか。諸君、色々教えてやってよ。なんせ未成年だし。アルコールは教えたらダメだよ」
タカ兄、一言余計だよ。
「えーと、ヒロキ君は何ができるかな?」
教えてもらえれば何でも……とは言えないよな。
「これでも、留学して博士号とMBAを持ってます」
ザワっと空気が一変した。
それより、僕は下の名前で呼ばれるのか?タカ兄も“宇佐”だからかな?
「あの、宇佐君よ……」
あ、呼び方名字に変わった。
「俺はテレビで見て、『同じ人間かよ』って思った。実在したんだ」
等々、様々な声が聞こえた。僕はUMAかよ。
「んじゃ、このデータを解析してもらえる?」
「了解しました」
どこまで解析すればいいんだろう?
そして数分後
「できました」
「どれどれ……っんがはぁ」
え?何?何?
「えーと、これは……?」
「解析というので、打ち込んで、プログラミング言語まで戻しました」
「速いね……ってそうじゃなくて分析!言い方悪かったね。グラフにするとかそういうの。例を見せた方が早そうだな。これを分析すると、データ・文字とか数字の羅列がグラフ数種になって一目でわかるだろ?そういうのを要求してたの。あ、ついでに、パワポで使える感じだと助かる。例はこんな感じ」
分析じゃなくて、解析って言ったじゃん。だからやったのにリテイクか……。
パワポとかは論文発表でよくやったなぁ。
「わかりました。ではまた数分後」
そして数分後
「できました。どうですか?」
「……完璧。パワポもこなれた感がある」
「あ、論文発表では必須だったのでそれででしょうか」
Sideタカシ
「社長、どうしましょう。新入社員の宇佐君、もう教える事ありません!」
そうだよなぁ。
「秘書の仕事、教えたか?」
「あ……」
『あ』じゃないだろ?重要なのに。特にスケジュール管理。
「今後は秘書の仕事を教えます」
俺としては、他に教える事あったのかという方が不思議だった。どうやら一般常識が通用しないようで、苦戦しているようだ。微妙だなー。
今日からは秘書の仕事を教えてくれるらしい。
来客時のお茶の出し方、礼の角度、その他所作。
スケジュール管理については留学時に自分のスケジュール管理してたからわかる。
一応教わったがこうして僕は社長秘書になった。
どこから話が出てきたのやら、『社長はお飾りで社長秘書の宇佐ヒロキ君がこの会社の創始者だ』という事だ。事実だ。でもタカ兄も創始者の一人なんだよなぁ。
僕はあのときまだケツの青い幼稚園児だったんだよなぁ。懐かしい。冗談抜きで、マジ蒙古斑あったかもだし。
確かに最初のキッカケは僕だけど、この会社がここまでデカくなったのはタカ兄のコミュニケーション能力あってのものだと思ってるし、僕は気にしないけど?
ゲッ。電車の中吊りにタカ兄と僕の話が載ってる……。うーん、あの会社の広報担当、どうなってんの?雑誌が出る前に悪い噂になるようなのは潰さないと。
「社長、おはようございます」
僕は社長室に入った。扉は閉めた。
「タカ兄、この部屋に盗聴器あるんじゃない?来客が持ち込んだとか?」
「ん?」
ふと座ったソファで、お尻に違和感が。案の定ソファの隙間から盗聴器らしきものが……。
僕はとりあえず持ってきた茶碗の中に落とした。(壊した)
この盗聴器を置いていったと思しき会社は買収してしまおう。僕にかかれば造作もない。
「で、タカ兄。今後どうする?あ、あとこの会社の広報担当ってどうなってんの?雑誌に僕とタカ兄の話載ってんじゃん。あれはOKなの?」
「広報担当は事情聴取だな。で、今後ねぇ。……カミングアウトする?」
「僕が幼稚園児だったから、タカ兄に会社を任せたって?信じるか?」
「でもあの記事だぜ?隠すよりオープンにした方がいいと俺は思う」
広報担当が原因か!?
「僕は正直、人付き合いとか人心に疎いからこの件はタカ兄に任せる。信じなかったらそれでいいし、信じるならそれでもいい」
そして僕とタカ兄は記者会見をすることとなった。記者会見にて。
「僕は幼稚園児の時にPCのソフトを作りました。そして、この僕の叔父に会社を起業してもらいました。理由は……幼稚園児がPCのソフトを作ったという事に世間はどう思うのか、家族にも内緒にしてたってのもあるんですけど……」
言葉を遮ると記者から質問がとぶ。フラッシュ眩しい。熱いし。
『幼稚園児というと5歳くらいですか?』
「何歳を希望でしょう?中学生だろうと高校生だろうと大学生だろうと退社してからだろうとお望みではないのでは?」
と言うと黙ってしまった。まぁ、社会人ってのが正解か……。
「叔父はコミュニケーション能力が高く、会社も大きくなりました。何か問題がありますか?」
ないだろう。起業時タカ兄は大学生くらいだったけど、大学生が起業って結構聞くし。特にIT産業。
「ないなら以上で記者会見を終わらせていただきます。ありがとうございました」
一応タカ兄と頭下げた。面倒だな。
後日談
僕は母さんに泣きながら怒られた。いいのか?
なんか泣いてたからよくわからんがウソはいかんなぁと思ったのです。
「パパも知ってたんでしょ?ママだけが蚊帳の外だったなんて……」
「あー、母さんゴメン。父さんには通帳作る時にカミングアウトした。タカ兄はもっと前から気づいてたよ。僕からタカ兄には言ってない」
この時点で、僕と父さんは床に正座。
「やっぱりママだけ知らなかったんだ……」
「ママ、ヒロキも悪気はないんだ。大人の夢を壊したくない。と子供ながらに考えてくれたんだよ」
父さん……正座で語っても何だか情けない。
「母さん、そんな理由もあるんだ。本当に悪かったと思ってる」
思ふコト。ウソはいけない。長期のウソはもはや演技だ。僕、幼稚園児だったんだもん。そんなにうまく立ち回れないよ。
あ、コレは嘘なのか?!