あくまでも幼稚園児だった。(2)

 そんなで僕はミリオネア小学生になったわけだが、父を隠れ蓑にしている。父は僕の金に手を出すことはない。
 まず、ネットに僕が作った極簡単なゲームをアップ。次に僕が作った簡単なソフトをゲーム会社に売り込んだ。
 取引を断るなら、起業するといいながら。結局起業することになり、タカ兄をトップにしてアンチウイルスソフトも世界展開する一大企業となった。
 取引しとけばよかったのにー。超小さい会社だからって侮ったんだね。
 父に「弟を使うでない」と諫めれられたが、僕だと見た目で侮られる。
 人間は見た目が8割というのはちょっと違う。第一印象で見た目が100%だろう。
 タカ兄は僕で左団扇状態である。コミュニケーション能力があるので、ソフトの内容とか聞かれても、「この会社の優秀な社員あってのソフトですよ!」で済ます。
 世界展開なので、外国語も求められるが社員任せ。僕なら全部できる。が、僕にはコミュニケーション能力はない。

 あーあ、いつカミングアウトしようかな?父は小学受験も考えたらしい。そんなのトップ合格してしまうからやめてくれー!
 とはいえ、次は中学受験かな?面接でカミングアウトしたらだめか?難しいな。
 僕は黙っていてもお金がたまる人間になっていた。うーん、趣味?知識集めかなぁ?
 中学受験前に資格取りまくろー!

 やりすぎた……。「小学6年生で〇〇1級と〇〇1級と……と多くの資格を持ってます」と様々なマスコミで取り上げられる。
 僕は取材NGだが、マスコミは果物の蜜にたかるハエか?!
 こんなんじゃ中学受験どころじゃないな。公立でも「あいつ調子にのってない?」とか言われるんだろうな。

 中学受験、学力試験はパス。面接は何聞かれるんだろう?
 父さんと行くべきだろうな。大学教授ってのもポイントになりそうだし。
 いっそのこと、受ける中学のPCにハッキングして面接内容をあらかじめ……っとハッキングは犯罪だから却下だな。

 中学受験の当日、母は忘れ物はない?などとやたらと聞いてくる……が、それよりも世間の目の方が僕は恐ろしい。
 学科はヨユー。
 面接は父さんに共に行ってくれるように頼んだ。「えー?ママじゃないの?」とごねる母。
 そうじゃなくてだな。
「えーっと、父さんの肩書が役に立つかなーって」
「あ、そっかぁ、ヒロキ君は頭いいわねー」
 今更だろ?さんざんマスコミが家にまで来たってのに。

 面接にて、僕は特に緊張してなかった。どっちかというと父の方が緊張していた。
「受験番号2015004番 宇佐ヒロキ君 どうぞ」
 呼ばれて、面接の部屋に通された。
 僕と父の正面には、学校長・理事長などそうそうたるメンバーがいた。
「えー、宇佐ヒロキ君はこの受験を前にたくさん資格を取得していますが、そのタイミングは何故ですか?」
 想定内といえば想定内か……。
「僕がどんな人間なのかをわかってもらいたかったからです。何ができる人間であるのか、わかってほしいと考えています」
「父上は大学教授のようで……。失礼ですが専攻は?」
「失礼ではないですよ。私の専攻は物理学です。それで本が家にたくさんあって、ヒロキが学問という学問に興味をもったようですね」
「この学校以外に受験していません。僕の興味は今、この学校です」
 うーん、株でもして下剋上したいなぁと思うが我慢。
「はい、わかりました。この学校の株を買い占めて下剋上はやめて下さいね」
 エスパーか?!ついさっき考えてた事なのに!!
「では、面接を終わります。ご苦労様でした」
「「ありがとうございました」」と父子で部屋を出た。

 部屋を出てからしばらくして、僕が「面接ってあんな感じでよかったかなぁ?」と父に問うと、「お前は頭いい馬鹿か?!面接中の会話、全部英語じゃねーか!?普通の小学生はあんな会話できねーよ。俺の教え子でもムリ」
 そうなのか、やりすぎか……。

 発表当日、僕は首席合格した。母は手放しで喜び、ごちそうを作ってくれた。首席合格……入学式で挨拶する人だ。面倒くさいなぁ。父に例文みたいなの書いてもらおうか?

 こうして僕の中学生ライフが始まった。まだ母にカミングアウトしていない。
「あ、ゴメン首席合格君」と僕にぶつかっていく人間がいる。うむ、今度からはかわすようにしよう。
 僕にぶつかっていく彼はどうやら小学受験で入学したらしい。そして、以来ずっとトップの成績だった、僕が現れるまでは。ぶつかって行くあたり、まさにやつ当たりだよなぁ。

 彼の名は 相川武。あ、ジャイアンだなぁと思った。名前がタケシだし。とりまき(らしき人達)もいたし。
「君は帰国子女か何かか?面接が全部英会話だったそうじゃないか」
 と相川君は言う。はぁ、間違いではないけど何で知ってんだ?
「帰国子女じゃないが、面接は全部英会話だった」
「あり得ないな、面接をフルで英会話」
 なんだ?自分に酔うタイプか?どこ見てんだろう?右斜め上の空?
「信じなくていいよ。そのうちわかる」
 そう言い、僕は相川君から離れた。

 そもそも同世代の友人というのが僕は苦手だ。コミュニケーション能力低いんだろうな。わかってたけど。
 故に僕は一人でいたいが僕はいつからハエトリ紙になったんだろう?と思う。
 周りに人がいる。そして質問責めに遭う。

「宇佐君はいつから頭がいいの?」「忘れた」
「どうやったら頭よくなれるのかなぁ?」「努力」

 で、会話は終わる。たまに「今、何に興味あるの?」と言われ、「いかにして、この学校の株を買い占めるか」と答えそうになった。危うい。

 授業中、たいてい僕は暇なので経済の本(英文)を読んでいる。これならば、何をしているのか悟れれまい!……甘かった。とりあえず、授業はさぼっていたので怒られた。
 本は没収されたが、経済の本(英文)だし、内容はそう簡単には悟られまい。わが社の状態も知りたかったし。タカ兄がうまくやっているはずだけど。
 試験はだいたい満点首席。授業中の態度さえよければ……と担任に言われる始末。

 ある授業中、目を見張ってしまった。いつものように経済の本を読んでいたのだが、我が社の株が下落している!?どういうことだ?
「先生!気分が優れないので早退します!」
 と、返事も聞かずにダッシュで気分が優れない、少なくとも病人には見えない速さで社屋へ向かった。

 タカ兄、それとあと父にも連絡した方がいーか?
 この学校の制服は便利だなー。入り口で警備員に止められるかと思ってたけど、大丈夫だった。
「タカ兄―‼ 社の株下がってんじゃん。どうしたの?」
「ちょっとこっち来い!」と、僕は社長室に連行された。
「起業時のソフトやらなんやらを作ってるのは幼稚園児だって噂が流れまくってんだよ!」
「半分事実じゃん。でも、残りは社のみんなで作ってるんでしょ?何で?」
「噂ってのは恐ろしいもんだ」と、悟りめいたタカ兄に父も参戦。
 いつ来たんだ……、父よ。
「タカシ、ヒロシの持ち株会社の株を下げたとな。いつか噂が出るって対策を何もしていないのか?」
「基本的にヒロシは完璧だからしてない」
 うーん、困った。損失額が億単位だ。
「ヒロシ、もう一つヒット作を頼む!挽回の策が思いつかない」
「それすら中学生が作ったって噂になるんじゃ……」
「その時はその時!今はそれだけなんだよー。俺を助けて!」
 むしろ、僕の会社だからちょっとオカシイ。僕がピンチなんだよな。「ねぇ、“俺を助けて”ってタカ兄なんかあったの?」
「ヒロキはごまかせないか。この株の下落さわぎで俺の責任が問われて、社長からおろされそうなんだよー」
 それは僕にとっても面倒な事になる。
「父さん、学校になんとか長い休みをとれるように。と、母さんも説得しなきゃだなぁ」
 また、面倒だが今の我が社と今後の我が社のためだ。頑張ろう。

 『人間頑張るとできるもんだ』と、僕は思った。
 僕はいつものペースでのん気にソフトを作ると、だいたい1本に1か月かかる。それでも早いと言われるけど。
 今回の僕は超ハイペース。猛烈な勢いでキーボードをたたきまくり、1週間で1本作った。いわゆる落ちゲーみたいのとギャルゲーだ。

 タカ兄曰く、「どっちも面白い。会議にかけるか?片方はアプリにして、片方はソフトにするか?」ということだ。
 また誰が作ったとかにはなんないのかなぁ?と僕は不安だったが、社外秘で僕が作ったということが公表された。今後噂が流れたら、社内にいる人物ということになる。「なんなら全員リストラする」と、タカ兄は言った。いや、それは営業とか僕はできないし、それはないわー。それよりも社内のデータを分析して噂の出所を特定する方が現実的だなぁと僕は思う。

「なぁ、ギャルゲーなんてエロ本も読まないお前がどうやって作ったんだ?」
「ひ・み・つ」
「うわーっ俺にまで。ヒロキ君!」と、タカ兄に何故だか責められた。いいじゃないか、ソフトができたんだから。

 僕が作ったソフト×2で社の株は再び持ち直し、タカ兄の立場も盤石となった。一安心。全くもって人騒がせな……。
 僕は再び中学生ライフを送ることになったわけだが、相川君があいかわらずのジャイアンっぷりを発揮してくる。
「君はスマホを持っているのかい?」
 そりゃあ、ねぇ?仕事の話もあるし、必需品だろう?
「最近はこのゲームが流行っているよ。知っているかい?」
 知っているもなにも、製作者だからな。
「音楽もいいし、ここの会社のゲームはいいよなー」
「あ、この会社のゲームの感想を教えてくれないか?知り合いが勤めてるんだ」
「ああいいぜ。ただし、君に「教えてください」って言ってほしいなー」
 あ、面倒くさい。
「いや、別にいーよ。他のやつらに聞くから。じゃーな」と、僕は相川君から離れた。

 うーん、僕は唸った。
 あ、また相川君が近づいてくる。好かれてんだか、面倒だなぁ。
「悩みかい?天才にも悩みがあるんだね。よかったら話してくれないか?」
 正直ウザい。そんな関係じゃないし。
「えーと、今の悩みは君が僕に話しかけてきたことかな?」
 素直に言ったら、相川君の取り巻きがクスクス笑い、相川君に睨まれていた。
「じゃ、僕はこれで」と、僕は本当に相川君から離れた。
 いや、マジで理事長に呼ばれてる。何?授業態度?今更なんだけど。

 理事長室にて
「単刀直入に言うと、君はこのまま高校・大学と進むつもりでいるのかな?」
 今回は全部日本語。そういえば、この学校、大学までエスカレーター式だったよなー。
「それなんですよねー。僕の授業態度は悪いでしょう?理由は言わずもがなです。高校から留学しようかなー?と、で一気に飛び級してMBAでも取得してしまおうかと思ってます。あ、最近の授業中の居眠りはネットで他国と他言語の会話を勉強しているからです」
 理事長絶句。
「あー、頼むからこの学校の株に手は出さないでくれよ」
「わかりました」
 株の話はしてないんだけどなぁ。MBAで引っかかったのかな?
「それと、ご両親は知っているのかい?留学とか……?」
「これから話します。今までは漠然としてたので話さなかったんですけど、今日理事長と話をして気持ちも固まり、両親に話しやすくなりました」
 面倒だな。おそらく母が嫌がる。子離れしてほしいナー。
「理事長からのお話は以上ですか?」
「うん、そーだなぁ。留学とかしても籍はこの学校に置いてね」
 僕を広告塔にする気か?ま、学校もボランティアじゃないし?

 家では
 母がやっぱりと言うか……「えー!ヒロキ君留学しちゃうのー?ママ寂しいっ!」……すぐそこに愛する夫がいるだろうに。 父は「あとで私の書斎に来なさい」
 おおぅ、これは……隠し事できないパターン?

 父の書斎では
「で、お前は何を考えてるんだ?最近は英語以外の外国語も習得しようとしてるようだし?」
 ん?ちょっと睨まれた?まぁ、いい。
「日本てさぁ、学校飛び級できないじゃん。だから留学。で、MBAとって会社の経営に役立てばなーと。あと、外国語は多く話せればいーじゃん。コミュニケーション能力あがるよ?……多分。グローバル化だし英語だけじゃねー。で、とりあえず近くの中国語・韓国語から始めて、うーんと留学の前に検定とか持ってた方がいいのかなぁ?あ、今はヨーロッパの言語。授業中眠くてさぁ」
「で、寝てる……。と」
 図星過ぎて僕はなにも言えなかった。
「んでさぁ、帰国後に入社した方がいいかなーと思ってる次第であります」
「それは何歳くらいになると思う?」
「んー?ハタチくらいかなぁ?」
 父さんはついに黙ってしまった。
「あのなぁ、検定取りまくり、最年少MBAとか絶対マスコミのエサだ。まーたうちが取り囲まれる……」
 仕方ないじゃん……。
「しかも俺は大学で『どうしたらあんな頭イイコが育つんですか?』とか聞かれるんだぜ?笑って誤魔化してるけど」
「はい、その件についてはすいません。で、留学については賛成or反対?」
「まぁ、お前の才能を伸ばすには丁度いいな」
 あー、そういえばタカ兄に言ってないなぁ。電話でいっか。
「父さん、タカ兄にも話すから電話して……下さい」

「あ、タカ兄?ヒロキだけど。今後僕留学して一気に飛び級してMBA取ってくる」
 タカ兄絶句。
「それ……いつまで?いつ帰国予定?」
「うーん、ハタチまでにはって予定ー」
 またしてもタカ兄絶句。
「そうだなぁ、ヒロキさぁ、会社にすんなり入ってトップ狙うなら秘書検定取っておけよ」
「もう持ってる」
「仕事速いっすね」
 何故敬語?
「俺を隠れ蓑に社長秘書って形でヒロキを社長室に入れとけばいいじゃん。実質社長。俺は交渉とか飲み会とか?『数カ国語話せる秘書です』って言えば文句ねーだろ?」
 まぁ、そうだなぁ。僕もポっと出ていきなり上のポストにつけるとは思ってないし。
「んじゃそういうことで、僕は留学する」
「おーい、メールとか電話の連絡先教えてくれよー。前みたく会社がヤバいって時にヘルプする用」
「ヤバい状況作んないでよ、まかせっきりなんだから。僕はMBAに打ち込みたいのに……。あ、時差考えて電話なりしてねー」
「で、ヒロキって今何語話せるの?」
「うーん、把握してないけど、英語・中国語・韓国語・フランス語・ドイツ語・アラビア語……」
「うん、もういい」
 何故だろう?タカ兄に遮れられた。聞かれたから答えたのに。理不尽だ。