あくまでも幼稚園児だった。(1)
僕は5歳だけど、とりあえず周りに合わせた生活をしている。
「ヒロキくーん、お迎えよー」 僕は幼稚園児だ。
母が迎えに来たようだ。
「今日も他のお友達と楽しく過ごした?お弁当は全部食べたのかな?」
「うん、今日はねー、みんなでおにごっこしてあそんだよ。おべんとうはなんかすごかったね。ママいつもありがとう」
と母に園で描いた絵を渡した。母はウルウルしている。
あー、ダルイ。鬼ごっことか疲れるし。絵を描くなら本格的に水彩とかがいいのに、クレヨン食べるやついるし。うまいのか?
現代アートっぽくしてもいいが、あくまでも幼稚園児だからなぁ。
あ、家に着いた。
うーん、この家にある本はほぼ読破。僕は、漢字はもとより、数学・物理・化学・英語・天文学・解剖学etc.全てわかる。努力の賜物ってやつだろう。
親の職業柄本が多くて助かったが、最近僕はPCが欲しいと思っている。是非ともプログラミングをしてみたいんだよなぁ。
親の前で猫をかぶるのもヒマになってきたし、PCがあればネットサーフィンできるし、時間も潰せる。
母に聞かれた。「もうすぐクリスマスね。ヒロキくんはサンタさんに何をお願いするの?」きた!クリスマスプレゼントにPCを買ってほしい。
実に夢がない。現実だからね。うーん2テラくらいのPCが欲しいケド。
「うんとね、2てらくらいのぱそこんがほしいっておねがいするの!」と言ってみた。
テラ……そんな細かく注文していいもんかな?
「たなばたみたいにたんざくにかくの?」
「ううん、願いは叶うものなのよ」と母は言う。
へっ、本場フィンランドのサンタさんは忙しいな、全く。
母は父に相談したようだ。
父は一応大学教授をしているらしい。専攻は聞いたことがない。専攻を聞く幼稚園児も変だろう。
「ヒロキがクリスマスプレゼントに2テラくらいのPCが欲しいって言うのよ」
「Youtuberにでもなりたいのかもな。はっはっは」
大らかだな。でも、PCは得られそうだ。
うーん、僕はいつこの猫かぶりをやめようか?微妙だが、まだ続けるか。
そして手元にPCがきた。
「わーい、サンタさんありがとう!」僕の作戦勝ちか?
僕は荷解きをした。64ギガのパソコン。ゲームか?2テラを注文したが、まあいい。とりあえずネットにつなぎたい。
「僕、いんたーねっとやりたいなぁ」
「そう言うと思ったんだろうね。サンタさんは流石のお見通し!ネットにつなげるように手配してくれましたー‼」
「わー、サンタさんすごーい!むてきー!」
すげーな、本場のサンタさんならね。マジで無敵。
「64ぎが?2てらってお願いしたんだけどな」と悲しい顔をしてみた。
「あ、まだ新品だし、電気屋さんに父さんが聞いてみるよ」
電気屋さんとか現実的だな。ふっ、僕の勝ちだ。
こうして僕は2テラのPCを手に入れた。
早速、プログラミングを開始。やっぱアンチウイルスソフトなきゃやばいよなー。と、自作の超強力アンチウィルスソフトを手に入れた。
のちに、このアンチウイルスソフトを超える、ソフトをと各IT企業が躍起になったのはちょっと先の話。
市販のアンチウイルスソフトはいたちごっこらしいが、僕作のソフトに穴はない。というかまさかの幼稚園児がって感じだろう。僕の父さんなら作るかもだけど、ハッキリ言って僕が作った方がカンペキだし。
「何してるのー?」と母が無邪気にモニターを見に来た。
ヤバい。……事もないんだな。
こんな時のために、僕はあらかじめ“ペイント”に“描きかけの絵”を用意していた。
モニターをちょっと変えればこの描きかけの絵がモニターに表示される。
実際には僕はプログラムを作っていた。が、母の出現で描きかけの絵に変わった。
プログラミング言語は今まで学んだことがないから、面白く独学している。描きかけの絵だが、本当は現代アート的なものを描きたい。しかし、母が目にする“描きかけの絵”を用意しなくてはならないのでちょっと我慢。
うーん、僕がカミングアウト(?)すれば数々の資格が取れるだろう。しかし同時に好奇の目にも晒されるわけで、猫をかぶっているわけだが。
起業する。うーん。これも同じか。年齢詐称は詐欺だしな。
通帳も作れない……。
そんなことを考えているとお正月。
父母・祖父母からお年玉を貰った。
「わーい、ありがとー。だいじにするねー」と笑顔で言いながら、内心「ちっ、しけてんな。僕が作ったソフト売ったら、この100倍は稼げる」と思っていた。
そんな僕の本心を見抜いている人がただ一人いる。父の弟だ。年が離れてるから、今年ハタチかな?
「『はい、ヒロキ君お年玉』って言いたいところだけど、まだ大学生だし働いてないもーん。ヒロキ向こうで話そーぜ」
と連行された。
「で、ヒロキの最近の悩みは?」
「うーん、この年じゃ通帳を作るのも無理だから、ネット上で商売もできない」
「おい、そこまでPC技術あんのかよ?」
「まーね。試しに僕が作ったソフトで遊んでみる?」
数分後
「マジかよ?全部一人で作ったんだろ?ハイスペックだなぁ」
「で、感想は?」
「うーん、知名度があれば完璧だなぁ。知名度が!」
「もちょっと簡単なソフト作ってゲーム会社に売り込むかな?」
「お金の振込先は?」
「それなんだよね。母に通帳作ってって頼んでみるかねぇ?」
「まぁ、お前が言うなら何とかなんだろ」
と話してたところで祖父乱入。完全にできあがってる……。
「おい、かわいい孫を返せー!」と僕は今度は祖父に連行された。
酔ったおっさんの相手は嫌なんだが、これも子供の務め。と諦めることにしている。
お年玉に+αしてくれれば僕もサービスするんだが、などと考えていた。
あ、そうだ!「ママー!僕もつうちょうほしいよー。つうちょうにおとしだまとかおかねためるんだ!」とねだった。
祖父もいたし、母だって折れるだろうと打算が働いた。
「ヒロミさん、いいじゃないか通帳くらい。管理はヒロミさんがすればいいし」
「本人の希望ですし。まぁ、そうですね」
よしっ、と僕は拳を握った。
あと、通帳の番号とかは瞬時に暗記すればいいし、うまくいくだろう。
親が知らないところで僕はミリオネアだー!
……僕はツメが甘かった。幼稚園に行っている間に母は通帳を作った。
何てことだ。存在は知っているのに番号などわからない。「いくらたまってるのかみせて!」と母に頼んでも、肝心な見たい部分はわからない。参った。
うーん、仕方ないカミングアウトかな?親だけならOKか?うーん、父さんだけ?うーん。
唸っていると珍しく父さんが話しかけてきた。
「どうしたんだ?父さんが話を聞いてやろうか?」
父も楽しそうだし、口堅そうだし、父だけカミングアウトするか……。
「ママはダメだよ。おとこどうしのはなしなんだからね!」と釘を刺しておいた。
父の書斎に行くことにした。二人だけで話したいし。
「で、父さんだけに何だ?」ちょっと嬉しそうだ。自分が選ばれた!みたいな優越感かなぁ?
「えーと、僕の事なんだけど……今まで猫かぶった嘘つきでゴメンなさい。詳しくは父さんの弟のタカ兄が知ってるんだけど……」
「はぁ?!タカシ?あいつの方が俺よりもお前の事知ってるのか?それショック」
「とりあえず、PCありがとうございます。アンチウイルスソフトも自分で作りました」
「何?!」
「多分、父さんが使ってるやつより性能いいよ?」
「マジか?!どこでPC学んだんだ?」
「独学」
「はあー?」
「他にも、漢字もできるし、数学・物理・化学とか全部マスターしたよ。それもここにある多くの本から吸収しました!」
父、絶句。「お前、俺の研究室の学生よりできがいいな」
「そういえば、父さんって専攻何?」
「ん?物理学だ」 ああ、それでこれらの本ね。理系に偏ってるよなぁ。
「詳しいことはタカ兄に問い合わせて!あと母さんの前では猫かぶり続けるから。今日の相談は通帳の話ってことで。母さん通帳まともにみせてくれないから。僕はちょーっと口座番号とか知りたかっただけなのに……」
「お前……その年で稼ぐ気か?」
「ん?うん、まぁ。タカ兄曰く『知名度さえあればイケる』らしい」
父は額に手を当てた。
「仕方ないな。父さんがヒミツ口座作ってやるか。子供の成長を促すのも親の務め。とはいえ、お前は精神年齢ハタチ越えだな」
これにはさすがの僕もショックを受けた。
「あと、お前が作ったというアンチウイルスソフト、俺のパソコンにもくれ」
「了解」
「ねぇねぇ、男同士の話ってー?ママ一人ぼっちでさみしかったー」
「けっ」と僕は思ったが、「えー、つうちょうのおはなししてたのー。ママはあんまりみせてくれないんだもん」と不貞腐れた顔をしてそっぽを向くと父と目が合った。
これはこれで気まずいというか気恥ずかしいものだ。猫かぶりを父は見た。さっきとのギャップで父もなんか固まっている。笑いを堪えているのか?
父に「ちょっと来い」と言われた。男同士の話は続くようだ。
「なぁ、色々検定受けようとは思わないわけ?」と聞かれた。
「もし僕が漢検1級と英検1級、その他の資格を持っているとしたら、メディアが取り上げることになるでしょ?面倒じゃない?そういうの」
「そこまで考えてるわけだ。で、この男同士の会話はどうしよう?」
父よ……無計画だったんかい!しかも僕に丸投げ?
「『あんまり母さんを困らせるな!』っていうのは?」
「そうしよう」 即決だな……父よ。