完璧勇者とポンコツな仲間たち 9

「ひえええ……! ここが、入った瞬間に魂が消滅するという伝説の幽霊城ですか……!」

深い霧の奥に佇む、不気味な古城。
お荷物(エア)四人衆――レナ、メイ、チカ、ジーク――は、お互いの服の裾を掴み合いながらガタガタと震えていた。

賞金首『首なし騎士(デュラハン)』を狩った翌日。
アベルの超勘違い暴走によって、本当に「幽霊城の大掃除遠征」へ連れてこられてしまったのだ。

「皆さん、怯える演技まで完璧ですね! 敵を油断させる高度な心理戦、とても勉強になります!」

いつものようにボランティア精神100%の笑顔で特大のモップを構えるアベル。
彼はそのまま「俺がまず玄関ホールの雑巾がけをしてきます!」と、もの凄い速度で城の奥へと突撃していった。

だが、今回はいつもと様子が違った。
城の奥から、「ウオオオオオオン!!!」という、鼓膜を突き破らんばかりの怨念の絶叫が響き渡る。

直後、凄まじいマイナスエネルギーの嵐が吹き荒れ、なんとあの完璧超人のアベルが、壁を突き破って吹っ飛んできたのだ。

「がはっ……!? こ、これは……!」

「ア、アベル!?」

見れば、アベルの全身に数百、数千という数の、城に巣食う本物の悪霊(ゴースト)たちが群がっていた。

いつもなら物理や神聖魔法で一瞬で除霊するアベルだが、この城の悪霊たちは『物理無効』な上、アベルのあまりのピュアで綺麗な魂に引き寄せられ、彼を媒介にして現世に実体化しようと文字通り死がみついていたのだ。

さしものアベルも、大量の霊体に同時に魂を吸われ、珍しく膝をついて息を切らしている。

「くっ……魂の、密度が……強すぎて、魔法の構築が、間に合わない……。皆さん、すみません、俺の力不足で……!」

完璧超人が初めて見せた、ガチのピンチ。
それを見たゴーストたちの巨大なボス――怨霊王が、アベルの背後で禍々しく嘲笑った。

「ヒャーッハッハ! 勇者の肉体は我らがお預かりした! 残された有象無象の小娘どもと泥棒め、貴様らの魂も一瞬で貪り尽くして――」

その言葉を聞いた瞬間、お荷物四人衆の脳裏に、かつてない最悪の未来がよぎった。

(アベルがここで死んだら……これからの衣食住と安全、誰が保障してくれるのよぉぉぉ!?)

彼らにとって、アベルの死は「世界の終わり」と同義だった。
おいしい宮廷料理も、ピカピカに研がれた装備も、安全な旅路も、すべてが失われる。

その恐怖と絶望が限界突破した結果、四人の生存本能が完全にバグり、過去最高にドスの効いた「ガチのハッタリモード」へと突入した。

「おい、そこの有象無象(トカゲの幽霊)!」

最初に動いたのはジークだった。
彼は冷酷無比な暗殺者のような目で、怨霊王をまっすぐ見据え、両腕に巻かれている包帯をゆっくりと解き始めた。

「お前、今、誰の許可を得てその男(アベル)に触れている? ……俺たち四人はな、あえてその男にすべての魔力を預け、普段は実力を『エア』に見せかけているだけの、『世界の調停者』だ。その男の魂の封印が解ければ、この大陸の霊脈ごと、お前たちの存在そのものが『無』に書き換わるぞ?」

「な、何だと……!?」

ジークのあまりにも堂々とした、底冷えするような大ハッタリに、怨霊王がビクッと動きを止めた。

続いて、レナが床に転がっていたアベルのモップを拾い上げ、信じられないほどのドヤ顔で肩に担いだ。

「ふっ……。その男の言う通りだ。私のこの『神速の剣圧』は、霊体だろうが概念だろうが、一撃で次元ごと消滅させる。お前たちのその薄っぺらいエフェクト(霊体)、モップだけで木っ端微塵にしてやろうか?」

レナがモップをブンッと一振りする。ただの風が吹いただけだが、怨霊王は「予備動作のない一撃」だと勘違いして恐怖に震えだした。

さらにメイが、指先に『極小・ファイア』を灯す。

「僕のこの火種はね、魂の水分を一分子残らず蒸発させる『奈落の業火』だよ。一瞬でこの城ごと、お前たちを燃えカスも残さず消去してあげようか?」

「ひ、ひえっ……!」

極めつけはチカだった。彼女は完全に半泣きの、しかし狂気に満ちた笑顔で両手を合わせた。

「神の御心です。皆さん、痛いの痛いの、全部あのゴーストのボスに飛んでけ(ヒール)ぇぇぇ!!!」

四人の、生き残るための必死すぎるハッタリと、凄まじい形相(形相だけは魔王以上)。

それを見た数万のゴーストたちは、完全に勘違いした。

(ま、マズい……! この四人、アベルという『安全装置』が外れかかったせいで、本性を現し始めたぞ! このままアベルを殺したら、この化け物四人に魂の根源ごと消滅させられる……!!)

「ギ、ギャアアアア! 命だけは(もう死んでるけど)助けてくれぇぇぇ!!」

恐怖が限界に達した怨霊王と数千のゴーストたちは、アベルの身体から一斉に飛び離れると、一瞬で城の壁の隙間へと這うようにして逃げ去っていった。

あまりの恐怖に、城の不気味な呪いの霧まで綺麗に霧散し、天井からは美しい太陽の光が差し込んできた。

「はぁ、はぁ……。す、凄すぎる……!」

ゴーストが離れたことで一気に回復したアベルが、ガバッと立ち上がり、四人を仰ぎ見た。彼の目は、過去最高にピカピカとした狂信的なリスペクトで輝いていた。

「皆さん、俺のピンチを救うために、ついに隠されていた『世界の調停者』としての真の力を解放してくださったのですね……! ジークさんの力の解放、レナさんの神速の剣圧、メイさんの奈落の業火、そしてチカさんの痛みの転移呪術……! 俺、命を救われただけでなく、『世界の真理』を目の当たりにしました!」

アベルは感動のあまり嗚咽しながら、四人の前にひざまずいた。

「う、うむ! 間に合って良かったぞ、アベル!」

「僕たちの本気なんて、めったに見られないんだからね!」

「神の……素晴らしいお導き(アベルが生きてて良かった)です!」

「(腕に包帯を巻き直しながら)太陽の光が眩しいぜ……」

こうして、一歩も戦うことなく(ただのハッタリと形相だけで)伝説の幽霊城を完全攻略(大掃除完了)してしまったエア四人衆。

アベルの彼らに対するリスペクトは、ついに「神」の領域へと到達し、家事万能の最強勇者と、今日も全力で最強を演じ切ったお荷物たちのドタバタ珍道中は、いよいよ誰も止められない次元へと突入していくのだった。