完璧勇者とポンコツな仲間たち 2

「……王都に着く直前に、申し訳ありません。俺としたことが、不覚を……」

いつもなら朝一番に起き極上の朝食を作っているはずの勇者・アベルが、簡易ベッドの上で真っ赤な顔をして息を荒くしていた。

完璧超人である彼が引いたのは、日頃の過密スケジュールと激戦の疲れが一気に噴き出したような、凄まじい大風邪だった。

「だ、大丈夫だよアベル! 僕たち『最強パーティ』がついてるんだから、一日くらいゆっくり休みなって!」

女魔法使いのメイが、頼もしく(しかし内心は冷や汗ダラダラで)胸を張る。

いつもすべてをアベルに任せきりだった「お荷物(エア)三銃士」に、かつてない緊張が走っていた。
そう、彼が倒れたということは、今日の食事、洗濯、そして看病のすべてを、自分たちだけでこなさなければならないのだ。

「みんな、アベル様はいつも私たちのために完璧に動いてくださっています。今日こそ、私たちの真の実力を見せる時です!」

女僧侶・チカの号令に、女戦士・レナも「お、おうよ!」と拳を握る。こうして、エア実力者たちによる決死の看病&家事ミッションが幕を開けた。

――が、現実は甘くなかった。

「ちょっとレナ! お粥(かゆ)を作るから、そのへんの適当な薪を割って!」

「任せろ! 女戦士の怪力を見せてやる……とおーっ!」

 レナは大剣を振り下ろしたが、パキンと鈍い音がして、薪ではなくレナの腰がいった。

「ふんぬぅぅッ!? こ、腰が……! 薪が硬すぎる、こいつ、新種の魔鉱石か何かか……!?」

「ただのオークの木だって! 軟弱だなぁ、もういいよ、僕の『極小(ミクロ)・ファイア』で直接鍋を温めるから!」

メイが人差し指の先に小さな火を灯し、お粥の入った鍋の底に近づける。

じーーーーっ……。
五分経っても、十分経っても、お粥は冷たいままである。

「……なあ、これ沸騰するまでに日が暮れないか?」

「うるさい! 出力を上げると僕が気絶するの知ってるでしょ! 誰か、誰か乾いた葉っぱ持ってきてぇ!」

その頃、テントの中ではチカが涙目で祈りを捧げていた。

「神様、どうかアベル様の熱を下げてください……! 痛いの痛いの飛んでけ(ヒール)! 痛いの痛いの飛んでけ(ヒール)!!」

チカの使える回復魔法は、かすり傷程度を癒やすのが限界。アベルの体内の風邪ウイルスには、一ミリも効果がなかった。それどころか、必死に祈るチカの額のほうが、アベルの熱気に当てられて汗でびっしょりになっている。

「はぁ、はぁ……チカ、さん……。すみません、俺のために、そんなに強力な聖なる祈りを……。身体の芯が、皆さんの温かい絆(魔力)で……ポカポカします……」

意識が朦朧とする中で、アベルは三人のドタバタ(彼視点では決死の連携プレイ)を見て、深く感動していた。
レナが腰を痛めながらも必死に包丁でリンゴをすり下ろし(形はボロボロ)、メイが酸欠になりながら小さな火で温めたスープ(ぬるい)を運び、チカがつきっきりで額のタオルを替える(絞り方が甘くて水浸し)。

「みんな……ありがとう、ございます……。俺、必ず、元気になって……また皆さんの足を引っ張らないように、頑張ります……」

アベルはぬるいスープを一口飲み、彼らの「不器用な優しさ」という名の隠し味に胸を熱くしながら、深い眠りへと落ちていった。

翌朝。
鳥のさえずりと共に、すっきりと目を覚ましたアベルは、驚異的な回復力で完全に復活していた。

「おはようございます、皆さん!」

爽やかにテントを出たアベルが見たのは、力尽きて地面に転がっている三人の姿だった。
レナは腰を押さえたまま白目を剥き、メイは魔力切れ(火の点けすぎ)で干からびたように倒れ、チカは徹夜の祈りで魂が抜けかかっている。

「……俺を治すために、一晩中、高度な陣形と魔力循環を行ってくれていたのですね!」

アベルの目は、再びピカピカとした尊敬の念で輝いていた。

「よし! 体力を消耗した皆さんのために、俺が『山鳥の薬膳粥』と『特製ハーブティー』を用意します! すぐに手入れしますからね!」

ガバッと起き上がった三人は、アベルが神速の手際で薪を叩き割り、一瞬で極上の朝食を作り上げていく姿を、拝むような目で見つめるのだった。

「……やっぱり、家事も戦闘もアベルに任せるのが一番だね」

「うむ、私たちは後ろでどっしり構えているのが、一番パーティのバランスが良いのだ」

「神の御心です。アベル様、おかわりをください」

こうして勇者パーティの奇妙な絆は、風邪を経てより一層(歪に)深まるのだった。