九州喧嘩三国志 1

アスファルトが陽炎で歪む、真夏の防波堤。
九州の南端に位置する島津高校のたまり場に、独特の掛け声が響き渡っていた。

「チェストォォォ!」

咆哮とともに、一人の男が鉄パイプを素手で叩き折る。島津の特攻隊長、「鬼の義弘」だ。
その背後では、彼の兄で総長の「智将・義久」が、冷めた目で煙草を吹かしていた。

「義弘、大友の連中が耳川の河川敷まで降りてきちょるぞ。いよいよ、九州のテッペンを決める時が来たな」

当時、九州の不良界は三つの巨頭によって割れていた。

豊かな資金力と海外のスケーターカルチャーを取り入れた最大勢力「大友高校」。
手段を選ばない冷酷さを武器に、破竹の勢いで勢力を拡大する「龍造寺学園」。
そして、死をも恐れぬ狂暴性と鉄の結束を誇る薩摩の戦闘集団「島津高校」。

この三校のプライドが激突する、血の抗争劇が幕を開けようとしていた。

第一章:耳川の罠

大友高校の総長、「ドン宗麟」は河川敷に現れなかった。
最近、怪しいクスリや新興の遊びに傾倒し、前線を幹部たちに丸投げしていたのだ。

「総長がいねえ現場なんて、まとまるわけねえだろ!」

不満を漏らす大友の特攻兵たちの前に、原付のエンジンを爆音で鳴らしながら、一人のOBが現れた。
三年前の殴り込みで、両足をへし折られながらも一人で百人近い敵を倒した生ける伝説、「雷神・道雪」だ。

「ガタガタぬかすな、小僧ども! 大友の看板に泥を塗る気か!」

車椅子代わりの原付に身体を縛りつけ、木刀を右手に掲げた道雪の威圧感に、大友の不良たちは一瞬で静まり返る。
大友高校、総勢八百。島津高校のナワバリである耳川の広大な河川敷へと一気に攻め入った。
対する島津は、わずか百五十。圧倒的に不利だ。

「島津の狂犬どもが逃げ出したぞッ!」

抗争が始まるや否や、義弘率いる島津の前衛が、無様に背中を向けて市街地まで逃げ出した。

「ハッ、口ほどにもねえ! 追えッ!」

大友の若手たちが色めき立ち、制止する道雪の声を無視し、狭い路地裏に大挙して流れ込む。
――それこそが、島津高校伝統のハメ技「釣り野伏せ」だった。

「……かかったな、大友のダボども」

暗い路地裏、ブロック塀の上から特攻隊の歳久と家久が冷酷に見下ろしていた。

「やれ」

家久の合図とともに、左右の民家の隙間から鉄パイプを持った島津の精鋭が一斉に飛び出す。
前方を塞がれ、後方からも逃げ出したはずの義弘が「チェストォォォ!」と叫びながら単車で突っ込んできた。
密集市街地で分断された大友は、パニックに陥り次々と血の海に沈んでいく。

「道雪さん……すまねえ……」

高名な幹部たちまで次々と病院送りにされ、かつて九州最大を誇った大友高校の黄金時代は、この日、唐突に終止符が打たれた。