テニス部の女神
「おい、タカシ。あそこを見ろ」
放課後の教室、親友の佐藤が息を弾ませて俺の肩を叩いた。
指さす先には、テニス部の女子たちが校庭でストレッチをしている。
「……ただの部活風景だろ」
「甘い。甘すぎるぞタカシ。あの角度、そして絶妙な西日の逆光……。これはもはや、青春という名の芸術(アート)だ」
佐藤は鼻の下を伸ばし、百円ショップの双眼鏡を取り出した。
こいつの煩悩は、夏の湿気よりもタチが悪い。
「通報される前にやめとけ。お前の青春、鑑別所で終わるぞ」
「バカ言え。俺はただ、生命の躍動を網膜に焼き付けているだけだ。おっ、見てろ。今から俺があの輪の中心に突撃し、ボール拾いを手伝いつつ、あわよくばLINE交換を……」
鼻息荒く立ち上がった瞬間、佐々木は机の角に股間を強打した。
「……ぐはっ、これぞ……真の……悶絶、青春……」
悶える親友の姿は、芸術というよりは、ただの「残念な生き物」の標本だった。
「おーい佐藤、生きてるか?」
床でのたうつ親友を介抱しようとしたその時、ガラッと教室の扉が開いた。
「……何してんの、あんたたち」
立っていたのは、佐藤が「テニス部の女神」と崇める学級委員の森下さんだった。
彼女の視線は、床で股間を押さえる佐藤と、その横に転がる双眼鏡へ。
「あ、いや、これは……野鳥の観察で……」
俺の苦しすぎる言い訳をよそに、佐藤は顔を真っ赤にしながら絞り出した。
「森下さん……今日も……汗で濡れる前髪とジャージ姿、最高です……」
「死ね」
間髪入れず一言。
森下さんの冷徹な一撃が、佐藤の残りわずかなライフをゼロにした。
