魔法使い
「絶対に、誰にも言うなよ」
放課後の旧校舎。俺は親友の佐藤に、命より重い秘密を打ち明けた。
「実は俺……魔法が使えるんだ」
佐藤は一瞬ぽかんとした後、鼻で笑った。「はあ? 深夜アニメの見すぎだろ」
俺は無言で、手近にあった空のペットボトルを指差した。全神経を集中させ、心のなかで強く念じる。
(浮け……浮け、浮け、浮け!)
すると、ペットボトルが微かに震え、ゆっくりと宙に浮き上がった。
「えっ……マジかよ……」
佐藤の目が点になる。ペットボトルは高さ1メートルまで上昇し、ふわりと静止した。
「すご……本物じゃん! これでテストの解答用紙を覗き見したり、女子の――」
興奮する佐藤を、俺は厳しい顔で制した。
「そんな俗なことには使わない。これは、世界の理(ことわり)を守るための力なんだ」
その時、背後から「コラ! 何やってる!」と怒鳴り声が響いた。生活指導の鬼、毒島(通称:ポイズンアイランド)だ。
「放課後にいつまでも残るな! さっさと……ん? それは何だ?」
毒島の視線が、宙に浮くペットボトルに釘付けになる。俺は冷や汗を流しながら、必死に「念」を解除しようとした。
しかし、力が入りすぎたのか、ボトルはさらに高く、天井に向かって猛スピードで射出された。
――バチンッ!
鈍い音と共に、天井の照明が割れた。
「あ……」
俺と佐藤が凍りつくなか、割れた電球の隙間から透明な極細の釣り糸が力なく垂れ下がってきた。
職員室でさんざん絞られた後の帰り道。
「……世界の理、ねえ?」
佐藤の冷ややかな視線が、俺のポケットから覗く『手品用透明糸(業務用)』のパッケージに突き刺さった。
「なあ……次は世界を救う魔法じゃなくて、女子を楽しませる実用的なやつを頼むよ」
