牙を授かりし者たちの詩:イワンの亡霊編 第11章
【第11章】新装備
「ただいま戻りました」
『戻りましたっ』
優斗が元気よく入ってきた夜桜とは対照的に、少し申し訳なさそうな
挨拶で4課へ戻ったのは日付が変わってから、大分過ぎた頃だった。
「おかえりなさい二人とも、何とか無事だったみたいね」
佳央莉の優しい声が優斗と夜桜を出迎える。
連日の徹夜続きだったはずだが、佳央莉は疲労を顔に出さない。
「すみません、色々ご心配をおかけしたみたいで」
「いいのよ、今に始まった事じゃあないでしょ?」
佳央莉は優斗の謝罪をウインクひとつで受け流した。
「そうそう、優斗くんたち海水浴場のフェンス越えたところ、
ばっちり監視カメラに捉えられてたから、消しておいたわ」
「……何から何まで、ほんとすいません……」
優斗は佳央莉に頭を上げる事は、この先ずっとないだろうと思った。
「さて。
お疲れのところ悪いけど、早速右目のバージョンアップ
やっちゃうわね」
「あ、はい。お願いします」
「そこに座ってて、すぐ終わるはずだから」
優斗は自分のデスクの椅子に座った。
佳央莉は手際よく優斗の右目横のスライドギミックを起動させる。
程なくして優斗の右目の義眼ユニットが排出された。
ユニット排出後の機械剥き出し部位に、エアダスターを吹き付ける。
続いて、おもむろに取り出した新しいユニットの包装を外し、
素早く優斗の右目にセットする。
スライドギミックを元に戻すと、義眼ユニットが入っているとは
思えない、普通の人間と変わらない横顔になった。
「はい、完了。ユニット起動してみて」
瞼を開け、少しの間があり、右目が青く点灯を始めたが、すぐに
左目と変わらない見た目になった。
やがて、微かな機械音と共に右の瞳が動き始める。
「新しい”目”の調子はどう?」
「ええ、順調です。よく見えますよ」
「そう、よかった。
それじゃあ、次はアンチ光学迷彩レンズを起動してみて」
「え、どうやるんですか?」
「そのまま頭の中で思えばいいのよ。
《YOZAKURA Sync Module》と直結してるから、思考するだけで
優斗くんの思い通りに起動するはずよ」
「思い通り……」
優斗は頭の中でレンズが右目にかかるところを想像してみた。
「あ……」
一瞬、視界の色が変わったかと思った直後、右目上部にいつもの
HUDが浮かび、
「Extra Lens Optical camouflage」
の文字が浮かび上がった。
「多分起動できました」
よく分かっていないような、あいまいな感じの返答をする優斗だった。
「よし、おっけー。
成功みたいね。
ただ、ひとつ気を付けて。
これ、突貫で作ったから、あまり長時間付けてると
優斗くんにダメージが出ちゃうはずなの」
「え……長時間ってどれくらいですか?」
優斗は恐る恐る尋ねる。
「んー……
優斗くんがいないとまともな起動実験が出来なかったから、
あくまで推測だけど、ざっと30分越えたくらい、ってとこだと思う」
「それだけあれば十分ですよ」
『優斗さん優斗さん!私にもそのレンズの効果、出てるみたいです!』
後ろで優斗の右目ユニット交換をぼーっと見ていた夜桜が、急にはしゃぎ出した。
「え、夜桜も?」
「あら、こっちも成功みたいね。
優斗くんの頭の中にある《YOZAKURA Sync Module》と夜桜は同期してるから
モジュールに変化があると、夜桜にも同じ変化が現れるのよ」
「へぇ……便利――
なんですよね?それって」
『これで優斗さんと一緒に戦えますっ!』
どことなく所在なさげな優斗の返事とは裏腹に、夜桜は嬉しそうだった。
「そうそう、あとこれも使ってみて。
夜桜のと同等以上の性能に、今はなってるはずよ」
佳央莉は自分のデスクに置いてあったそれを優斗に渡した。
「Kamishiro-Blade Ver.Ⅰ」
――
ひと段落ついたところで、優斗は佳央莉にロシアでの顛末を話始めた。
「……ということがあったんです。
セルゲイは特殊部隊、俺はロシア警察の応援での事だったんですが、
まさかセルゲイの弟が麻薬密輸に関わってたなんて……」
「そう……それで捕まえようとして、そんな事に……
それで――
優斗くんはこれからどうするの?」
優斗は間髪入れずに答える。
「逮捕します。セルゲイを止められるのは多分、俺だけですから」
「そう。
一応、言うだけ言うけど……
無茶しないでね」
『大丈夫です!私もいますから!』
「そうね(笑)
優斗くんを守ってね、夜桜」
『もちろんですっ
私は優斗さんの相棒ですからっ』
いつもの風景になってきたところで、優斗は苦笑いを浮かべながら
何気なくスマホをチェックした。
「WhatsApp……?
誰からだ……」
1件の未読メッセージが表示されていた。
WhatsAppを起動する優斗だったが――
優斗の目が見開かれ、動きが止まっていた。
そこに書かれていたのは
「Останній феєрверк」
第11章 完
