異世界刑事~刑事達が異世界で事件捜査~ 第21話

第21話 旅エルフの災難<7>

−−クリエスタ町にある森

深い霧のせいで木々の葉先から水滴が落ち、地面は柔らかい。和司と弘也は二手に分かれ、それぞれ別の場所を調べていた。

先に||足痕《げそこん》を見付けた弘也は膝を付き、スマホの定規アプリで||足痕《げそこん》の大きさを測っていた。

「足幅が広く、踵が大きい。また、土踏まずが浅い。この形状だと男性の様に見えるけど・・・。重心がぶれてる。焦って走ってたか?」

一方その頃、和司の方はなかなか||足痕《げそこん》を見付けられず、濡れた葉を払いながら周囲を見回していた。

「何も出てこないな・・・」

「ハズレだったんじゃないの?」

「もう少し探してみよう」

和司は腕を組んで思考を巡らせた。ナイフを投げた位置。自分との距離、角度、投擲の軌道。そして、見えない敵の立ち位置を頭の中で再構築する。

「こっちだ」

ナスティアを連れて自分がイメージした場所に向かってみるが、それでも足跡一つ見当たらない。考えろ。何か見落としてないか、考えろ。そういえばナスティアを最初に襲撃したのは建物の上。もし、あれと同じ手口だとすると・・・。

「ナスティア、お前木登りできるか?」

「え?」

ナスティアはポカンとした顔で和司の顔を見つめる。



「ちょっと!上見ないでよね!」

ナスティアは和司の肩に乗って枝の周りを見回していく。

「見ねーよ!ゴチャゴチャ言ってないで早く探せよ!」

「今やってるでしょ!もう少し右に行って!」

ナスティアの指示で和司は木の幹に沿って右に移動する。

「あれ?」

「どうした?」

「ここだけ砂が付いた痕があるのよ。この辺に砂なんかないでしょ。何で付いてるのよ?」

和司はスマホを出してカメラアプリを開いた。

「これ使ってその場所を撮ってくれ。横向きにして左の丸を押せばいい」

「んー」

スマホを受け取ったナスティアは画面を見つめながら丸ボタンを押した。

カシャッ

撮影を終えたナスティアはしゃがんだ和司から飛び降りた。

「何なのこれ?見た事ないマジックアイテムだよ。いくらするの?これ」

「俺とヒロしか持ってないレアアイテムだ」

「カズ!そっちは何か見付けたか?!」

採取を終えた弘也が草をかき分けながら二人の元にやって来た。

「あぁ。見付けるには見付けたんだが・・・」

和司とナスティアは頭上の木の枝を見上げた。

「あの枝に辺り一帯には見掛けない土砂が付着していた。これ、画像」

和司はナスティアが撮った画像を弘也に見せた。

「その土砂、採取したいな」

弘也のその言葉に和司は二、三歩後退りした。

「まさか今度はお前を上げないといけないのか?」

「他に誰がいるんだよ?」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「分かったよ。ほら、肩に乗れ」

和司がしゃがむと、弘也は肩に手を掛け、枝の上の砂を丁寧に採取していった。

「どうだ?」

「確かにこの辺のじゃないな。どっちかというと遺体発見現場・・・街なんかで見掛ける物に酷似している。鑑定できれば詳しい場所まで特定できるんだけど、そんな便利な物はこの世界にはないしな」

「じゃあそろそろ降ろすぞ」

和司はゆっくりと腰をかがめて降ろすと、弘也は肩から降りて靴を履いた。

「妙だな・・・。何で離れた場所で二種類の|足痕《げそこん》が出てきたんだ?襲撃してきた奴が木の上からなのは分かるとして、ヒロが見付けた方は一体誰の|足痕《げそこん》だ?」

「まさかストーカー男?」

「これは推測だけど、形状から見て男性の物に類似してたな」

「こんな所まで追い掛けて来たの?!」

「あくまで仮定の話だ。俺達が聞き込みをしている間、奴は姿を消していた。なのに今になって再び姿を現した。なぜだ?」

「何か用事があって離れざるを得なかったとか」

「ナスティアのストーク以外に大事な用ってなんだ?思い付かないぞ」

「もう一つ。歩幅が広かった。恐らく走って逃げたんだと思う」

「走ってどこかに消えた・・・。後を追えるか?」

「この湿った土砂なら森の外に出てもしばらくは靴裏に付着しているはずだ。それを辿ってみよう」

三人は|足痕《げそこん》を辿って森の外へと抜けたが、草むらに入ったらしく、それで途切れた。