人類最後の男

テレビから流れるニュースを見て愕然とした。
世界中からオレを除いて男が全員消失したという。

最悪だ……この世の終わりだ……。
オレは隠れゲイで、男が好きなんだ!

橘ハジメ。21歳。大学とアルバイト先に通うだけが毎日の平凡な学生。無趣味。彼女イラナイ歴21年。彼氏イナイ歴21年。
オレの略歴なんてざっとこんなもんだ。平凡中の平凡、凡庸中の凡庸だ。
そんなオレだけがどうしてこの世界に残されたのか。理解できない。いや、理不尽で不条理極まりない。運がないせいか。いままで生きてきておみくじに「吉」以上のものが出たこともなければ、宝クジには一度も当たったことがない。むしろ、歩くと信号機か必ず赤になるほどだからな。いや、それだけの理由で取り残されたとしたらひどすぎないか。

そういえば、この世は最初からオレに冷たかった。というのか、未成年でゲイやトランスジェンダー(心の性と身体の性の不一致)だと発覚するのは死刑宣告を受けたようなものだ。
よく誤解されるがゲイとトランスジェンダーは一緒にされやすい。いまでこそ確立されているが、人間の性質にいわゆるノーマルな異性愛者以外にはLGBTなんてくくりがある。LGBTは「持って生まれた性(男性、女性)」「性自認」「性嗜好」で説明するとわかるだろうか。一応、オレなりに噛み砕いて説明して観よう。
「性自認」は自分が男か女かどっちだと自覚しているか。「性嗜好」男と女のどっちが好きか。
つまりだ。
ノーマルな男は、“男”の体で生まれ(持って生まれた性)、自分を“男”だと思い(性自認)、好きになるのは“女”だけ(性嗜好)。
オレは“男”の体で生まれ(持って生まれた性)、自分を“男”だと思い(性自認)、好きになるのは“男”だけ(性嗜好)。これがゲイだ。
余談だが、端的に言えばLGBTの「L」にあたるレズビアンは女が好きな女。「G」はゲイ。ちなみに、「ホモ」は侮蔑用語で基本使われない。「B」のバイセクシャルは男でも女でもOKのヤツだ。
このへんまではみんなついてこれると思う。
対してややこしいのが、「T」のトランスジェンダー。「自分の持って生まれた性」に違和感がある(性自認が異性)から、大抵、好きになる性(性嗜好)が同性になる。
たとえば、“男”の体で生まれたのに(持って生まれた性)、心が“女”なもんで(性自認)、異性である“男”が好きになる(性嗜好)。いわゆるオネエというやつか。
これで「性嗜好」が“女”が好きだったら、男の体を持ったレズビアンになる。
ややこしい。
ややこしいが、おおまかには、これがトランスジェンダーだ。
気の毒なのは「Xジェンダー」だろうか。男でもない女でもない「中性」「無性」「両性」「不定性」で、男と女のどっちでもあり、どっちでもなかったりするやつだ。感情に混乱が多くて恋愛が大変だろうなと思う。まあ、その感情に乗っかって楽しんだ者勝ちだという説もあるが。
Xジェンダーは意外にも日本で生まれた言葉だという。アンケートの性別欄に「男」「女」だけじゃなく、「その他」を見るようになって久しいからなんとなくだがわかる奴もいるだろう。オレもよくわからんが、服を着るときに悩みが尽きないらしい。
もうこのへんにしておこう。こうなったのも神様がとことんマヌケなせいだ。おまけに、見ているだけで何もしないんだから、いい面の皮だ。
それで、オレだ。しつこいようだが、オレは“男”の体を持って生まれて、“男”だと自覚しながらも、“男”が好き。生粋にして王道のゲイだ。
生まれてから小学生の頃まではその性癖に自覚はなかった。「女より男に惹かれる」「カッコイイ男をみると胸がときめく」という男のへの恋愛感情は「憧れ」のようなものだと考えていた。
でも、中学生になると自分の心と身体が隠せないようになってきた。特定のかっこいい男子の先輩をつい意識してしまう。たくましい男の体にふれてみたいという願望が高まる。確かに、少し変かなとは思った。しかし、思春期になったオレが男の体に興奮する激しい衝動を性欲だと気づくのに時間はかからなかった。
もう開き直るしかなかった。オレは男が好きなんだと。
ショックは浅かった。薄々気づいていたのもあって、「やっぱりか」とオレ自身驚くほど葛藤はなかった。ちなみに、オレは自分を変態だと思ったことは一度もない。持って生まれた揺るぎないものだから、それを「異常」だとは感じなかったからだ。オレは思春期の少年にしては達観していた方だったと思う。
でも、ばれたらイジメの対象になる。男からも女からも蔑まれ、嫌われ、無視され、人間扱いされなくなる。下手をすると暴力まで振るわれたり、ネットで将来を潰されるような嫌がらせをされる。
仕方がないから、嫌々ながら女が好きなふりをしてきた。それでも「ふり」なだけにどこかで無理が出てくる。男同士で集まってネットでオンナの裸を見てもオレだけが冷静だ。オンナの話が出てもオレの反応はワンテンポ遅い。ヤバイ、これ反応するやつか、と思ってあわてて合わせ、ギリセーフを掴んできた。
高校時代、さすがにこれではいつかバレると思ったオレは対策を考えた。
「オレ、本当はオタクで二次元の女子が好きなんだ。三次元女子はかわいくても無理」
そう公言することにした。
これはこれで気持ち悪がられた。だが、オタク文化が確立している日本ではひどい迫害には遭わなかった。リア充との軽い人種差別はあったものの、距離を置かれるだけで済んだ。同じ偏見の目で見られたとしても、同性愛好者だと思われるよりはずっと立場がましだった。
そうなると問題はつきあう友達だ。当然ながらアニメ好きに圧倒的に高比率な「デブ・キモメン・陰キャ・モテない」の四拍子そろった野郎たちとつるむことになる。男は好きだが、オレの好みは筋肉隆々のかっこいいアスリート系だ。元々、アニメオタクすら仮の姿だ。話も合わない。次第に彼らについていけなくなったオレは、誰からも距離を置くようになった。ましてや、道端の石コロ程度の存在でしかない興味の対象外の女子を友達にする気すら持てなかった。
細身で中背。成績も中程度をキープし、授業中はわかっていても回答しない。誰の印象にも残らないように過ごしてきた高校時代。
グラウンドで練習するラグビー部の先輩の姿を横目で見ながら帰るのが唯一の楽しみだった。セックスじゃなく、ただ好きな人のことを考えてせつなくなったり、絶対に叶わないならと好き勝手な妄想をして一人の時間を過ごすのが好きだった。
SNSで「男子の恋人募集」なんてのを見ても書いてあるのはたいていセックスの要望だけ。オレは男とセックスしたいんじゃない。好きな人と愛し合いたい。ただそれだけだ。
そんなこんなで大学に入学してもオレの生活は変わらなかった。それでもいくぶんか解放された気分にはなれた。高校ほど無理に人と関わらなくてよくなったからだ。一人に慣れると、人間関係が濃くなるほどに息苦しさを覚える。寂しくないといえば嘘になるが、隠れゲイがバレる危険に比べればつらくない。それに、案外快適だ。一人ならマッチョメンズのダンス動画を見ては好きなだけニヤニヤできる。

それなのに、オレは人類最後の男としてこの世に残ってしまった。
もうおしまいだ。「子孫存続のため」と称してオレはあいつらオンナどもから精子バンク扱いを受け、種馬として生きていかなくてはならない。

冗談じゃない。オレの子供が何人もいて、そいつらが近親相姦しまくる世の中なんて狂っている。第一、オンナなんてさわりたくもない。一度たまたまうっかりオンナの腕をつかんでしまったことがある。グニャっとしてブヨっとした締まりのない肉の感触。あの柔らかすぎてグニャグニャしたさわり心地が物凄く気持ち悪かった。いま思い出しても嫌悪感で吐き気がしてムカムカしてくる。
オレは自分のアパートでテレビから流れるニュースを前に部屋の中をグルグルと歩き回っていた。
なんとかこの絶望的な状況から逃げ出さなくては。これから確実に起こるのは、バイアグラを使ったオンナとの強制的性交渉。良くてオ×ニーによる精子冷凍保存か。それも、腎虚になるくらいの回数をこなさなくてはならないだろう。オレを殺す気か。
そうそう、腎虚は過度に性交することで衰弱する男の体の状態をいうのだが、俗説に睾丸から精子がなくなると男は死ぬと言われている。ある意味、幸せな死に方だと思うが、妊娠に飢えたオンナどものために精子バンクにされて死ぬのはごめんだ。
どうする、オレ。どうする。
オレは立ち止まって三つの答えを導き出した。

①女装して逃げ伸びる
②性転換して女性として生きる
③この場で死ぬ

②はまず無理だ。そもそもオンナになんかなりたくない。もっとも、人類最後の精子バンクが機能しなくなるのをオンナたちが許さないだろう。
①もできて数日間だ。喉仏は隠しとおせない。髭も数日で濃くなる。いくらオレが細身とはいえ、そもそも男女は骨格がちがう。筋肉のつき方も違う。オンナのやつらは無駄に勘がいいから簡単にばれるだろう。
③が一番確実性がある。でも、どうやって死のう。手首を切るのは痛いだろう。醤油一升瓶の一気飲みは無理がある。睡眠薬を飲んで風呂で溺死したいが、睡眠薬がない。やっぱりアレか、飛び降り自殺。いや、あれ痛そうだな。なにより怖い……。

スマネが鳴った。
オレはあやうく心臓麻痺を起しかけた。
なんてタイミングだ。死ぬかと思ったじゃないか、まったく。
それが電話の着信音だと気づくのに何秒も要した。スマートフォン・ネクスト。次世代スマホを持つようになってから随分になる。そもそもいまどきスマネに電話がかかるなどめったにない。

画面を見ると知らない番号だった。03で始まるから東京都からかかってきているのだけはわかる。嫌な予感しかしない。でも無視もできない。敵の出方を知りたくてオレは思い切って電話に出てみた。出るとさっそく中年オバさんの低く物腰の柔らかい声が耳をくすぐった。
「橘ハジメさんですね。私、厚生労働省職員の花田と申します」
警戒して返事もしないオレに相手は何度も「もしもし?」を会話中に入れてオレが聞いているか尋ねた。
「人類最後の男性の報道に橘さんのお名前が発表されて驚かれたかと思います。ですが、安心してください。さきほどあなただけではなくなりましたので、ご報告にお電話いたしました」
「えっ?!」
油断させるつもりかと思い、半信半疑ながらもオレは思わずその台詞に食いついてしまった。
「あの、オレ、いえ、自分だけではない、とは、他に男性が発見されたという意味でしょうか」
「いいえ、ちがいいますよ」
中年花田は朗らかな調子でオレを諭すように続ける。
「さきほど全世界の病院で男児の出産が確認されたんです。約五千人ほどですが、どの子も元気なお子さんだそうで」
「え、出産?!」
「はい、日本では30人くらい」
オレは「人類最後の男」のポジションを5分で奪われて肩透かしを食らった。それでもまだ妊娠願望女たちや人類存続主義者たちの魔手から逃れられたわけではない。成人男子はいまだオレ一人なのだから。
「それから、全世界人権擁護団体の代表から橘さんの人権を守るよう政府に連絡が入りまして、橘さんの合意なく、種の保存と称して性行為を強要した場合、対象者は国際連邦裁判にかけられるとの条約が受理されたと通達されました。ですから、安心していままでと同じ生活を送れますよ」
「条約?! 人権擁護団体?!」
なんだ、その話のスケールのデカさは。オレは絶滅危惧種か、抑圧された立場の弱い少数民族か?
中年花田は変わらない自然な朗らかさで説明を続ける。
「橘さんが同性愛者であるのは国のDNA検査ですでに調査済みでした。なので、我々厚労省としても元より了承済みだったんですよ」
「ちょっと待ってください。国のDNA検査って何ですか」
「生後三カ月検診を受けられた際に血液を採取されますよね。先進国では共通のDNA検査が義務づけられていたんです。ほら、昔と違っていまの時代、性癖をDNAで鑑定できるようになったじゃないですか。先進国では一人一人のDNA情報が国家間で管理されていたので橘さんが同性愛者であるのは政府間共通で存じておりますよ」
「存じております、って、立派な個人情報の侵害じゃないですか!」
「今回のような場合の危機管理に活用するために作ったシステムの一環です。普段は乱用されないよう厳重に管理していますからご安心くださいね」
まるで病院の看護婦さんが子供に「注射は痛くないですよー、大丈夫ですよー」となだめているような調子だ。いつもならバカにされているようで腹も立っただろう。けれど、今回は勝手が違った。中年花田がどうにも「お母さんっぽいオバさん」のせいで妙な安心感をおぼえるのだ。オレは騙されているんだろうか。
「それから、全世界人権擁護団体の支部に当たる“NPO法人 ニコニコぷんぷん丸”の方がサポートに入りますので、なにかあったらその方におっしゃってくださいね」
いや、待て待て待て待て! なんだ、そのあやしげな団体名は! もうすでにいかがわしい臭いがするじゃないか。
オレが何か言う前に、了承されたと得心したのか中年花田は電話を切ってしまった。
――5分後、混乱の渦中にあるオレの耳に、今度は玄関のチャイムが聞こえた……。

この世の終わりが来たと思った日から半年が過ぎた。
意外にもオレは満足した生活を送っている。
「ハジメちゃん、お茶ちょうだい」
ウメさんがデスクで書類に目を通しながらオレに頼んだ。オレはウメさんの書斎を出て台所へ行き、緑茶を淹れる。窓からは柔らかい春の陽射しがこぼれていた。向かいの家の屋根では雀たちが楽しげに歌っている。急須にお湯を注ぐと緑茶の青々とした新鮮な香りが立ちのぼり、オレはすっかり和んでいた。

85歳の五十嵐ウメさんがNPO法人の職員だと名乗ってオレのアパートのチャイムを鳴らしたときは何の冗談かと思った。普段着でのっぺりした顔つきはどうみても近所のバアちゃんが部屋をまちがえたんじゃないかと思ったほどだ。
あわててドアを閉めたオレに、ウメさんはドアを力強く叩きながら、
「ちょっと、アンタ、ドアを開けなさいよ」
「ふざけんな! オレの頭越しにいろいろ勝手に決めやがって! 条約とかなんだよ、一体」
「人類最後の男を守るにはスピードが肝心だったんだよ。いい加減、開けとくれ。かよわい老人に無駄な労力使わせるもんじゃないよ」
ドカンドカンとドアを蹴飛ばしながらウメさんが叫ぶ。最後にはドアに穴を開けた。なんつー元気な老人だよ。
数時間後、オレは強行突破してきたウメさんと直接対話した。
最初、人類最後の男性が人権を無視したやり方でオンナどもの好き勝手にさせられるのを守ろうとしてくれたらしい。
「なんなら国の天然記念物にでもしようかと思ってねえ」
「なんだ、ずいぶん好意的だな」
オレの皮肉を素通りし、ウメさんは天を仰いでため息をつく。
「でも、アンタ、同性愛者だっていうじゃないの。厚労省もリスクのある遺伝子を拡散させたくないから、今度はアンタを危険視しちゃって。なんだか怪しい雲行きになってきたから思い切ってあたしが提案したのよ。冷凍保存してある本物の精子バンク、それも優等生遺伝子の方を無料で妊娠したい女性たちに提供したらどうかって。状況が状況だから、即刻全世界で承諾してもらえたわよ。そこから全世界の政府はアンタにすっかり興味を失ったみたいで」
急展開で口のきけなくなったオレに、ウメさんは畳みかける。
「それで、調べてみたら世界から消えたのは男だけじゃなかったの。嫉み、僻み、妬み、嫉妬心、偏見、悪意、憎しみ、差別意識の感情もだったのよ。男固有の感情じゃないのに不思議じゃないかい。あたしは男たちが犠牲になってあらゆる負の感情を持って行ってくれたのかと思ってねえ」
今度はさっきまでの元気溌剌とは似合わないようなため息をつく。忙しい老婆だ。
数時間のうちにこれだけのことがわかったと知ってオレはただひたすら驚くばかりだった。というのか、このバアちゃんは何者なんだろう。本当にただのNPO法人の一員か?
「で、アンタ、このままいくと一人取り残されるだろう。パートナーもできないだろうし。挙句、待ってるのが孤独死なんて可哀想になってねえ。それで、どうだい。ウチで働かないかい。あたしの秘書の一人におなりよ。ウチは政府と仕事してるから給与面は保証するよ」
こうして、オレは強引に押し切られる形でウメさんの秘書になった。秘書といってもオレの役割はお茶くみや雑務、ウメさんの話相手だ。実務的な役割は他の何人もの優秀な秘書が仕切っている。
おかげでオレは今までの生活とは打って変わって、孤立せずに女子たちと楽しく働いている。
とにかく、ウメさんは精力的な人だ。世界中のあらゆる機関と連絡を取り合っては閣僚級の人たちと話をつける仕事をしている。見ているこちらがパワーを分けてもらえそうなほど元気で明るくてチャレンジ精神が旺盛だ。
ウメさんといると性別を意識しなくていい。でも彼女を女性扱いしないと怒られる。飲んだくれで暴力しか振るわなかった父親も、その父を捨てて他の男と駆け落ちした母も、もうこの世にはいない。だから、いまはウメさんが家族のようなものだ。
人々から偏見や闘争意識がなくなったせいで、ウメさんの人権擁護団体の仕事はなくなってしまった。代わりにいまは平和と偏見のない世の中を維持するための教育に力を入れている。
そんなこんなで気のせいか世界の空気も変わったように思える。戦争はなくなった。パワー系の仕事は機械に任せられるよう世界中で知恵を出し合ったおかげで技術革新がさらに進んだ。世界から風俗街が消え、街にはゴミ一つ落ちていない。
同性愛好者だとバレたオレにも誰もが優しく接してくれる。いや、気を遣ってくれているのではなく、偏見の眼差しを持たずに受け入れてくれているというべきか。
「ハジメちゃん、飲みに行こうよ」の女子たちの誘いに、無理せず「いいっすよ。いつもの店にしますか」と答えている自分がいる。苦手だった女性たちがいまでは普通に友人として存在するのが不思議であり、ありがたい。何より、長年の胸のつかえがとれたような気分になっている。
「やっと人類が“存続してもいい存在”になれてきたような気がするねえ」
オレの淹れたお茶を美味しそうに飲みながらウメさんがつぶやく。
「環境を破壊しまくったり、食物連鎖をぶち壊したりしなくても上手にやっていけるちゃんとした種族だともう誇ってもいいかもしれないね」
「そうだね、ウメさん。でも、どうしてオレだけが男で消えなかったんだろう。オレはウメさんの相手をしているだけで、人類になんの貢献もできていないよ。子孫も残せないし」
「ハジメちゃんが残った意味は長い目で見て考えていけばいいさ。まあ、あたしは、『この世に貢献できない人でも存在していていいんだよ』っていう優しさを皆に伝えるためにいるような気がするんだけどねえ」

若いのに恋愛もセックスも望めないオレのこれからの人生――代わりに、ウメさんや偏見のない仲間たちと平和で裕福に楽しく暮らしていける。
これを幸せと呼んでいいんだろうか?
いまの世界は平和で平穏だけど盛り上がりに欠ける天国のような場所だが……?

いや、決まってんだろ、幸せに。
イケメンはいるが心を許し合える人が誰もいない世界より、色恋の刺激はなくても、良き理解者や楽しい仲間のいるところには必ず光があふれている――オレはそれを知ったのだから。