異世界刑事~刑事達が異世界で事件捜査~ 第19話

第19話 旅エルフの災難<5>

−−和司:酒場・フォンストリート

和司とマーチンの雑談は続く。

「へぇ、冒険者稼業を一人でこなしてるのか」

「と言っても簡単なクエストばかりよ。自分が生活できる範囲でね。無駄にリスクを犯す必要もないでしょ」

「そりゃそうだ」

「それに私・・・」

「ちょっとあんた!」

ふと振り返ると、そこには顔を真っ赤にして怒っているナスティアの姿が。

「なーにーがー間違った事しないよ!ダークエルフと一緒にいるだなんて!」

「お仲間じゃないのか?」

「ダークエルフは別!私達の敵よ!」

店内の空気が一瞬にして張り詰めた。周囲の客が息を飲み、アルバートが手を止める。マーチンはワインのグラスを置いて立ち上がった。

「おー怖い怖い。私は退散させてもらうよ」

ナスティアの横を通ろうとしたその瞬間、二人の間でバチッと何かが弾ける音がした。その時、マーチンの表情がわずかに揺れた。

「・・・」

「何よ?!さっさと消えろ!」

「はいはい」

彼女はすらりとした身体をフードに隠して外へ消えていった。

「その椅子処分して!早く!」

「店の物には手は出せんだろ」

「じゃあ誰も座らせないで!汚れが移るから!」

そこまで敵視するのか。目の前にいるアルバートも苦笑いしている。

「ただでさえ大変なのに、余計な困り事増やさないでよ!」

「困り事って?」

「カズ、ちょっと込み入った話がある。部屋で話そう」

酒場の喧噪を背に、三人は階段を上がって二階の宿部屋へと登る。部屋には昼の光が差し込み、木製の床に淡い影を落としている。部屋に入るなり弘也はドアを静かに閉めて背中で鍵を掛けた。

「じゃあまず・・・」

捜査会議をしようとしたところでナスティアが一番に声を挙げた。

「私ひどい目にあったの!私ね・・・私ね・・・」

「ナスティア、落ち着け。順を追って話を進めよう。カズの方は何か掴めたか?」

「あぁ。被害者の氏名はアルク・シルフィド。職業は薬草学者。第一発見者はマル害が自宅で雇ってる使用人、マヤ・ドミナー。今朝マル害が自宅にいない事に気付いて周辺を探していたら、倒れているところを発見してクエストを出したらしい。彼女の証言では昨夜、森で栽培している薬草を見に行くと言って出かけたのを最後に消息を絶ったとの事だ。ヒロの方は?」

話を振られた弘也は手帳を開いた。

「現場周辺で”何で俺を襲うんだよ?!”って男性の声が聞こえた、という証言が複数出てきた。その前後に何か会話をしていたらしいんだけど、そこまで聞き取れた人物は見当たらなかった」

「それとヒロ、マル害は森の方で薬草の栽培をしていたらしい。しかし靴の裏にはそんな痕跡が見当たらなかったよな。現地に行って確認したい」

「それは構わないけど、もう一つ別の問題が起きた。それが込み入った話の方なんだが・・・。帰りに何者かに襲撃された」

弘也は回収した投擲ナイフと採取した指紋をテーブルに並べた。

「襲撃された?お前がか?」

「いや、あれはナスティアを狙った様に見えた。だけど本人には狙われる心当たりがない。だよな?」

「うん」

「ストーカー絡みか?」

「別だろうな。確かに現場から離れた時には奴は姿を消していた。だけど、襲撃してきたのは屋根の上からだ。それに、正確な狙いも地面に突き刺さる様な熟練度もあの男にあるとは考えにくい。どちらにせよ、移動の際は警戒を厳にした方がいいだろう」

「じゃあ俺から一つ提案」

和司はそっと手を挙げた。

「何だよ?」

「ナスティアの宿をここに変える。ちょうど一部屋空いたらしいんだ。アルバートさんとも話は付けておいた。多少のいざこざも織り込み済みでな。そっちの方が警護しやすい。だろ?」

「・・・確かにいい判断ね」

「だろ?伊達にダークエルフ口説いてたんじゃないのさ」

和司の発言にナスティアはテーブルを蹴って立ち上がった。

「口説く?!冗談じゃないわよ!あんなのとヤる位なら私が相手した方がまだマシよ!」

爆弾発言だ。

「なぁナスティア、俺には分からないんだ。エルフとダークエルフの関係ってのが。敵対してるってのは知ってるが、その理由が分からないんだ」

落ち着きを取り戻したナスティアは椅子に座り直した。

「こんな伝説があるの。かつてエルフはエルファリア族という一つの種族だったの。でもある時、光と闇、二人の調律者が現れて加護を授けてくれた。そこで調和と協調を選ぶ者と、終焉と再生を選ぶ者に別れた。加護は子々孫々まで受け継がれ、世代を重ねていくうちに別の種族になった。それが今のエルフとダークエルフってわけ」

「光の加護と闇の加護を引き継いでいった結果、DNAが分化して別の種になったわけだな」

「・・・すまんヒロ、その例え分からん」

「私も」

「その加護ってのは個人差があるのか?」

「お互いが近くにいる程度では何も起きないけど、感情が乱れると加護が反発し合うの。さっきバチってなったのはそのせいね」

「話を戻そう。捜査方針についてだが、マル害の殺害前の行動に付いて特定する。その為に一度森の方に行って、土の鑑定とそこで栽培されている物を押収、それ等の鑑定をマル害の自宅で行う。その後でナスティアの引っ越しをする。これでいいな?」

「意義なし」

「じゃあ行こうか」

和司と弘也はジャケットを羽織り、ナスティアは腰掛けていたベッドから立ち上がると、軽く髪を整えた。