完璧勇者とポンコツな仲間たち 10

「我が魔王軍は全面降伏する! だから頼む、その『概念すら消滅させる大剣』を収めてくれぇぇぇ!!」

幽霊城の一件から数日後。
アベルが「世界一の切れ味を誇る最高級包丁を買いに行ってきます!」と出かけた宿屋の部屋に、突如として空間が割れ、禍々しい角と圧倒的な魔力を有する魔王軍トップ「魔王・サタン」が姿を現した。

ついに魔王が直々に襲撃してきたのだとお荷物(エア)四人衆――レナ、メイ、チカ、ジーク――は完全に絶望し、泡を吹いて卒倒しかけた。

しかし、世界最凶の男であるはずの魔王は、なぜか最初からガタガタと生まれたての小鹿のように震えており、その場で盛大にスライディング土下座を極めたのである。

「噂は聞いている……! 勇者・アベルの背後で、あえて実力を『エア』と偽る四人の『世界の調停者』たちよ……!!」

そう、魔王のもとには「怨霊王と数千のゴーストが、アベルの背後にいる四人のバケモノによって精神を破壊され、完全消滅した」という凄まじいデマが届いていた。

魔王・サタンは完全に怯えきっていたのだ。

「こ、これは我が魔王軍が世界中から集めた、至高の貢ぎ物だ! これを差し上げるから、どうか私の存在(概念)だけは消さないでくれぇぇぇ!!」

魔王が涙ながらに指を鳴らすと、部屋の中に山積みの財宝、そして『世界樹の完熟極上マンゴー』『幻の魔獣の霜降りA5ランク肉』『天界の蜜で作った幻のプリン』など、世界中のおいしい絶品グルメが所狭しと並べられた。

(えっ、これ全部食べていいの……!?)

四人の目が一瞬で現金な輝きを帯びた。

自分たちはいつも通りハッタリをカマしていただけなのに、魔王が勝手に勘違いして世界平和が達成され、おまけに最高級のご馳走まで手に入ってしまったのだ。

「ふ、ふん……。お前がそこまで言うなら、今回のところは許して――」

「ただいま戻りました皆さん! 王都一の包丁を――って……ま、まままっ魔王!?」

ガチャリと扉が開き、あまりにも間悪く完璧超人のアベルが帰ってきてしまった。
アベルは目の前にいる魔王の強大な魔力を瞬時に察知し、全身の戦闘オーラを爆発させて「光の聖剣」をさっと引き抜く。

「皆さんを害そうとする魔王め、俺がここで一瞬で塵にして――」

「待て、アベル!」

ここで魔王が殺されたら、せっかくの最高級プリンや霜降り肉が台無しになる。
ジークは冷酷な『影の支配者』の笑みを浮かべ、アベルの手を優しく制した。

「この男(魔王)はな、俺様の『闇の言霊』によって、すでに精神の九割をこちらに掌握されている。今のお前が斬る価値なんて、もうこの男には残されていない……」

「な、何だって……!?」

アベルの脳内超変換が本日も最速で炸裂した。

(な、なんて恐ろしい……! ジークさんは、俺が帰ってくる前に、言霊だけで魔王の戦意を完全にへし折り、服従(土下座)させていたのか……! しかもレナさんたちは、魔王の全魔力をその果物や肉の内部に完璧に封印し、いつでも爆破できる『人質(飯)』に変えている……!!)

アベルは滝のような汗を流し、聖剣を鞘へと収めて、四人の前に深々と平伏した。

「素晴らしい……! 俺が包丁を選んでいるわずか数分の間に、世界を恐怖に陥れた魔王軍を、無傷で、しかも『美味しい貢ぎ物』へと完全に無力化して世界平和を達成してしまうなんて……! 皆さんこそ、本当の光の神です!!」

「ギ、ギャアアアア! 脳波を読まれているぅぅぅ! 許してくれぇぇぇ!!」

アベルのガチすぎる鑑定理論(大勘違い)を聞いた魔王は、自分が何重もの見えない因果の罠にハメられていると完全に錯乱。「もう二度と人間界には攻め込みません!」と叫びながら、割れた空間の彼方へと一目散に逃げ帰っていった。

「……さすがは皆さんです。これで、世界に真の平和が訪れましたね」

アベルは涙を流して深く感動しながら、買ってきたばかりの王都一の包丁を握りしめた。

「よし! 世界平和の記念に、魔王が置いていったこの至高の食材を使って、俺が『建国レベルの超絶デラックスフルコース』を振る舞います! 皆さん、お腹を空かせて待っていてくださいね!」

「うむ! 楽しみにしているぞ、アベル!」

「僕たちが本気を出せば、魔王なんてこんなもんよ!」

「神の……素晴らしいお導き(美味しいご飯がタダで食べられる)です!」

「いい……食材、だな……(本当に世界が平和になっちゃったよ……)」

こうして、一歩もまともに戦うことなく、一ミリの魔力も使うことなく、ただの凄まじいハッタリと超勘違いによって世界を救ってしまったお荷物四人衆。

家事万能の最強勇者が腕を振るう最高級のディナーを前に、どこまでも歪で、どこか奇跡に満ちた彼らのドタバタ珍道中は、世界を救った後も、賑やかに、そして美味しく続いていくのだった。(第一部・完)