九州喧嘩三国志 3

耳川の河川敷で島津に惨敗し、総長の宗麟も引きこもった大友高校は、完全に終わったと誰もが思っていた。
だが、大友の魂はまだ死んでいなかった。

第三章:孤高の白狼

夕暮れの廃ビル。
かつて大友のナワバリだったその場所に、島津の息がかかった他校の不良たちがたむろしていた。

「おい、大友はもう解散だろ? この街は島津のモンなんだよ」

ヘラヘラと笑う不良たちの前に、白いライダースジャケットを羽織った長身の男が静かに現れる。
整った顔立ちに、鋭い眼光。道雪の遺志を継いだ男、大友高校の若き特攻隊長「西国無双・宗茂」だ。

「大友の看板を下ろしていいのは、俺を倒した奴だけだ」

「あぁ? なんだテメェ……」

ヤンキーたちが一斉に殴りかかるが、宗茂の動きは速すぎた。一切の無駄がない、ボクシング仕込みのカウンターが次々と火を噴く。
一歩も下がる合間に、三人、五人と一瞬で路地に沈んでいく。

「ヒィッ、バケモノかよ……!」

最後の一人が恐怖に顔を歪めたとき、宗茂はそいつの胸ぐらを掴み、冷徹に言い放った。

「鬼島津に伝えろ。宗茂が、大友のツケを返しにいくとな」

義弘がその報せを聞いたのは、九州制覇を確実なものにするため、福岡へと部隊を進めていた最中だった。

「宗茂……道雪のオヤジが遺した最高傑作か」

義弘はニヤリと笑い、自ら単車を走らせた。決戦の舞台は、博多湾を望む、夜のコンテナ埠頭。
街灯が鈍く光るアスファルトの上、一台の白いバイクの横で、宗茂が煙草を咥えて待っていた。
そこへ、地響きのような排気音とともに、義弘率いる黒い単車の一団が到着する。

「よく逃げずに待ってたな、大友の生き残りが」

義弘が単車を降り、首の骨をボキボキと鳴らす。
「逃げるわけがない。俺のオヤジと、あんたらに病院送りにされた仲間たちのプライドがかかってるんだ」

宗茂は煙草を投げ捨て、ファイティングポーズをとった。

「チェストォォォッ!!」

義弘が猛スピードで突進し、重戦車のような右ストレートがうなりを上げる。かすっただけで骨が砕ける一撃。
しかし、宗茂はそれを紙一重でスウェー。すれ違いざま、義弘の顎へ目にも留まらぬ速さの左フックを叩き込んだ。
パキィィン! と夜の埠頭に硬質な音が響く。

「がっ……!?」

喧嘩無敗の義弘が初めてグラついた。宗茂の攻撃は、正確に人間の急所をぶち抜く「無駄のない喧嘩」だった。

「おもしれぇ……本当におもしれぇなぁ、小僧ッ!」

狂気的な笑みを浮かべた義弘が、今度は手当たり次第に周囲の鉄パイプを掴んで振り回す。荒れ狂う嵐のような猛攻。宗茂はコンテナの壁を蹴り、空中を舞いながら義弘の死角へと回り込む。
一進一退の死闘。義弘の鉄パイプが宗茂の脇腹を捉えて肋骨を軋ませれば、宗茂の鋭いカウンターが義弘の顔面を捉えて鮮血を舞わせる。
お互いに顔面は腫れ上がり、服はボロボロに引き裂かれていた。

「ハァ……ハァ……さすがは鬼島津、タフすぎだろ」

宗茂が口の血を拭う。

「テメェこそ、西国無双の看板は伊達じゃねえな……!」

義弘もまた、膝が笑いそうになるのを必死に堪えていた。二人が最後のタイマンのために拳を握り直した、その瞬間だった。
埠頭の入り口から、数え切れないほどのヘッドライトの光が押し寄せてきた。
赤と青の回転灯、そしてスピーカーから流れる不気味なトランスミュージック。

「――そこまでだ、九州の田舎ヤンキーども」

現れたのは、高級車と無数の大型バイク。その特攻服の背中には、燦然と輝く「五七の桐」の紋章。
全国最大の不良グループ、「豊臣連合」の先遣隊だった。
車から降りてきたのは、豊臣幹部の一人、「最強の虎・清正」。

「お前らの遊びはここまでだ。これからは、この九州も豊臣のナワバリとする」

清正の後ろには、数百人の完全武装した豊臣の兵隊が控えている。さすがの義弘と宗茂も、これには動きを止めた。
義弘が吐き捨てるように笑う。

「チッ……いいところを邪魔しやがって、都会のネズミどもが」

宗茂もまた、白いライダースの襟を立て直した。

「島津のオッサン。タイマンの続きは、あの生意気な外来種を片付けてからだ」

「ハッ、気が合うじゃねえか。大友の若造!」

かつて敵対し、血を流し合った島津の「鬼」と大友の「無双」。
二人の天才不良が、今度は背中を預け合い、九州に襲来した巨大グループへと同時に牙を剥く――。